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吉原店から耕書堂へ…蔦重の成功と大版元・鱗形屋の没落

「江戸のメディア王」蔦屋重三郎の生涯(2)蔦重の運と人間力

堀口茉純
歴史作家
概要・テキスト
蔦屋重三郎(箱入娘面屋人魚 3巻)
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9892706
吉原遊郭の手引書で出版を始めた蔦重。もともと吉原に店を構えているという地の利を生かし、大手版元である鱗形屋がつくる吉原のガイド本を小売し、そのかたわらで自作の手引書も扱った。その後、鱗形屋の衰退に伴い一挙に台頭した蔦重の運と、その成功の源にある彼の人間力に迫る。(全8話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:07:47
収録日:2024/11/06
追加日:2025/01/16
キーワード:
≪全文≫

●大手出版の『吉原細見』の横で自前の本を売るという戦略


堀口 もちろん大衆向けの戦略も次々に打ちだしておりまして、それが『吉原細見』(よしわらさいけん)の小売りでした。

―― はい。これはどういうものになるのですか?

堀口 はい。これは、『吉原細見』(よしわらさいけん)という吉原のガイドブックです。もともと日本橋の老舗の大版元に鱗形屋(うろこがたや)というのがありますが、そこが販売を独占して出版していたものなのです。

 鱗形屋といえば『金々先生栄花夢』(きんきんせんせいえいがのゆめ)という作品を大ヒットさせまして、大人が読む挿絵入りのおもしろい本に黄表紙というジャンルがあり、これを流行らせた版元なのですけれども、吉原にお店を構えていた蔦重は、その鱗形屋の『吉原細見』の小売りを行なうことで、この大版元の鱗形屋とのパイプをまず築き上げるということになります。

―― なるほど。やはり吉原に店を構えていますからね。

堀口 そうなのですよ。

―― これは行った人がどのお店に行こうかというときに、地の利があるのですね。

堀口 そうです。地の利があるのです。そのかたわらで、遊女の評判記を自前で出版するようになっていったということです。

―― そのあたりがまたうまいですね。

堀口 はい。小さいながらも書店兼出版社という業態で、商売はかなり順調だったようです。数年後には独立をして、吉原の大門口の手前の道筋が五十間道(ごじゅっけんみち、ごじゅっけんどう)といいますけれど、この道沿いに自分の店を構えるようになりました。

―― ちょうどこの前の講義(『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(2)「公界」としての吉原)でも吉原に行きましたが、イメージすると、ちょうどそこになるわけですね。

堀口 そうですね。伺いましたね。

―― はい。

堀口 見ていきますと、この『吉原細見』にも「細見版元本屋 蔦屋重三郎」と出てきております。ここにお店があったのだということです。

―― そうですね。きちんと自分のお店の場所もあるということですね。

堀口 はい(笑)。ちゃんと書いています。

―― はい。


●鱗形屋のしくじりをきっかけに『吉原細見』の版元になった蔦屋


堀口 そうしているうちに、鱗形屋...
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