「令和」の出典「梅花の歌三十二種の序文」を読み解く
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
元号「令和」の出典『万葉集』「梅花の歌の序文」とは
「令和」の出典「梅花の歌三十二種の序文」を読み解く
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
元号「令和」。今上天皇の生前退位に伴い、ご健在のもと改元が行われたのは近代国家になってからは初めてのことであった。また、漢籍からではなく、日本の古典である『万葉集』から文字が選定されたのも、記録上は初めてのことだという。しかし、『万葉集』には、どのようなことが書かれていたのであろうか。渡部泰明氏に典拠と発表された『万葉集』「梅花の歌三十二種の序文」の読み解きを特別にお願いした。
時間:12分08秒
収録日:2019年4月6日
追加日:2019年4月16日
≪全文≫

●典拠となる序文を書いた万葉歌人は大伴旅人ではないか


 こんにちは。今日は、新しい元号として発表された「令和」の出典であるといわれた『万葉集』「梅花謌卅二首并序(梅花の歌三十二首、并せて序)」とされている部分について、ご説明したいと思います。

 現在、「梅花の歌三十二種の序文」の作者は、大伴旅人ではないかとする意見が最も有力です。漢文で書かれた文章なので、簡単にご紹介していくため、まず全文を読み上げてみましょう。

 「天平二年正月十三日に、帥老(そちらう)の宅(いへ)に萃(あつ)まりて、宴会を申(の)べたり。
 時に初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やはら)ぐ。梅は鏡前の粉を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香(かう)を薫(かを)らす。しかのみにあらず、曙(あけぼの)の嶺(みね)に雲移り、松は羅(うすもの)を掛(か)けて盖(きぬがさ)を傾(かたぶ)け、夕(ゆふへ)の岫(くき)に霧(きり)結び、鳥はうすものに封(と)ぢられて林に迷ふ。庭に新蝶舞ひ、空には故雁帰る。
 ここに、天を盖(きぬがさ)にし地(つち)を坐(しきゐ)にし、膝(ひざ)を促(ちかづ)け觴(さかづき)を飛ばす。言(こと)を一室(いっしつ)の裏(うち)に忘れ、衿(ころものくび)を煙霞(えんか)の外(そと)に開く。淡然(たんぜん)に自(みづか)ら放(ほしいまま)にし、快然(くわいぜん)に自(みづか)ら足(た)りぬ。

 若(も)し翰苑(かんゑん)にあらずは、何(なに)を以(もち)てか情(こころ)をの(手偏に「慮」)べむ。詩に落梅(らくばい)の篇(へん)を紀(しる)す。古(いにしへ)と今(いま)と夫(そ)れ何か異ならむ。宜(よろ)しく園梅(ゑんばい)を賦(ふ)して、聊(いささ)かに短詠を成すべし。」


●三十二の梅の歌を導き寄せる壮大な序文の意味


 簡単に訳してみましょう。

 「天平二年正月十三日、大宰帥旅人卿の邸宅に集まって、宴会を開く。
 折しも初春正月の良い月で、外気は心地よく、風は穏やかである。梅は鏡の前のお白粉のような色に花開き、蘭は匂い袋の従える香のように薫っている。それだけではない、夜明けの嶺には雲が移り来て、松はその雲のベールを掛けてまるで絹傘をさしかけたように見え、夕方の山の穴には霧が立ちこめ、鳥はその霧の薄絹に閉じ込められて林の中で迷っている。庭には生まれたばかりの...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹

人気の講義ランキングTOP10
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
日本の定年制はおかしい…ガラパゴス的で不幸を招く制度
出口治明
運と歴史~人は運で決まるか(1)ソクラテスが見舞われた「運」
歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える
山内昌之
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉