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まるでゲームの世界…死後も戦い続ける神オーディンの物語

北欧神話の基本を知る(2)「安らぎ」のない死後の世界

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
北欧神話における人間の始まり、死後の世界はどのように描かれているのだろうか。人間の始まりについての伝説がいくつかある中で、比較的知られているのが神オーディンの物語である。オーディンは戦いの神であると同時に、戦いの中で死を迎えるので死をも統括する存在だ。そこで描かれる死後の世界は、黙示録で描かれているような最終戦争が起こるため、日本の神話などにある、いわゆる「安らぎの世界」に行くという思想がないのが北欧神話の特徴である。(全2話中2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:55
収録日:2022/06/07
追加日:2023/10/26
≪全文≫

●北欧神話における人間の始まりと「3」という構造


―― そうしますと、そのような悲観的な中で、人間のはじまり、文化のはじまりはどういうことになるのでしょうか。

鎌田 先ほど(前回)、人間のはじまりについて、岩から生まれたユミルが乳を飲んで生まれたという話をしましたが、人間のはじまりについてはいくつか語られています。例えば岩が人間になったというのが、ユミルから人間が始まったという神話です。オーディンとヴィリとヴェーという、ユミルを殺した孫のような神々がいる。その神々が、木の幹から人間を作った、木の幹を人間に変えたという話も、その中にあります。『エッダ』の中でもいくつかの始祖伝説、人間のはじまりの伝説が描かれているのです。

 その3神が木の幹から人間を作ったという話で興味深いのは、その「3」という構造です。例えば、人間の体も3つに分けることができる。頭の部分と胸の部分と足の部分。これはプラトンの3層説(「魂の三分説」のこと)といって、頭部(理性)の徳は「知恵」へ、胸部(気概)の徳は「勇気」へ、お腹から下の下半身(欲望)は「節制」という、その3つを持つ存在は徳を持つ(正義)という話ともつながっていく考え方、思考の仕方です。全てのものを3つに分けるのは、普遍的な1つの思考方法です。トライアングル、トリニティ、三位一体といった具合です。

 その3神について、オーディンが命を与え、ヴィリが心(精神や思考)を与え、そしてヴェーが見る・聞く・話す(目・耳・口)の能力を与えたといったように、3神の3機能が人間の3つの特性を表しました。

 そして、先ほどブーリと言いましたけれども、最初の人間はアスクとエンブラです。これは、何か思い出しますよね。

―― キリスト教を思い出しますね。

鎌田 アダムとエヴァですね。だから、おそらくは無関係ではないと思うのです。ユダヤ教の神話はメソポタミア神話のパクリともいえる。エジプト神話やメソポタミア神話は、間違いなくギリシア神話に大きな影響を与えている。そしてインドの神話も、互いにギリシア思想との関係で影響を与えている。ということから考えると、ユダヤの創造神話やギリシア的な神話が北欧神話に影響を与えていないとは言い切れない。(つまり)伝播していっているのではないか。

 ところが、まさに北欧的に彫刻されて...
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