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「悲しみのディアドラ」と死後の世界ティル・ナ・ノーグ

ケルト神話の基本を知る(3)悲哀の物語と死後の世界

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
同じ島国で発達してきたケルト神話と日本神話。その地理的特徴から、物語の悲哀、悲劇、もの悲しさという共通点が表われてくる。それは、はるか海のかなたに存在する死後の世界にも通じるものがある。それぞれの神話では一体何を語られているのか。ケルト神話における死後の世界ティル・ナ・ノーグについて解説しながら、「もののあはれ」や『平家物語』の無常観を通して日本神話の共通点を見いだす。(全3話中3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:52
収録日:2022/04/12
追加日:2023/08/06
≪全文≫

●ケルト神話と日本神話の共通点(1)島国という地理的特徴


―― 地理的には北欧にも近いともいえますが、北欧神話と何か共通性があるのでしょうか。

鎌田 北欧神話との共通性は、神々の闘争といいますか、そこは非常に共通しています。ダイナミックに神々が相争い、戦いを繰り返す。その神々の戦いの物語という点では、いろいろな政権交代の話があるという点で共通しています。

 しかし、それは世界中にある神話の一つのパターンでもあるので、そういう意味で特性があるとまでいえるかどうかは別ですね。

 では、どこに特性があるかというと、私の観点では、「悲劇的な側面」といいますか「悲哀観」で、アイルランドにも日本にも結構共通する、神話の中の悲哀観というものがあると思います。

 ギリシア神話は、話自体がかなり明朗闊達な感じがあります。しんみりしたりエレジーのようになっていったりする要素は少なく、神々の活動は非常にドラマチックにドライに展開していく。

 けれど、前回お話しした浦島太郎につながる話は、うら悲しさ、もの悲しさを含み持っているわけです。そういった、うら悲しさ、もの悲しさが生まれてくる要素、条件は何かを考えていくと、これはやはり地理的特性が大きいのではないかと思います。

 このケルト神話群と日本神話群を比べると、やはり地域特性の共通性が見られると思いますが、日本とアイルランドの地域特性は、川上さんから見るとどういうところにあると思われますか。

―― やはり島国といいますか。大陸に対する島国というところにもなってくると思いますし、閉じられた世界の中で、先ほど先生がお話された、汎神論的とはいいませんが、いろいろな神様が存在しているという部分は残りやすかったのかなという気がします。

鎌田 先ほど悲哀観ということを言いましたが、ケルト神話と日本神話の大きな特徴は、やはり大陸ではないということですね、どう考えても。大陸ではないということは、海に面しているということになりますよね。本当に大陸のど真ん中、中原のような地域だと、海という発想はない。河は重要な要素としてあったとしても、海はないからです。

 でも、日本は四方が海に囲まれています。もちろんアイルランドも丸っこいから、四方八方が海です。海の彼方には、東のほうを見ればイギリス、ブリテン島があるけれど、西のほうを見れば、島はな...
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