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回復の途上にある中国経済が抱える不安要素とは

新型コロナウイルスによる世界変動(2)中国経済のジレンマ

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
各国の経済状況をどのように読み解くべきか。中国はすでに感染終息宣言を出す勢いだが、経済状況の回復にはまだ時間がかかる見込みである。それには、最近転換しつつある中国の産業構造も関係している。(全7話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:06:40
収録日:2020/04/03
追加日:2020/04/18
≪全文≫

●中国経済の要は失業者への対処である


―― 先ほど、ガバナンスの問題と経済の問題を議論されていました。これらについて、より詳しくお話し頂ければと思います。まず経済についてですが、今後どのようになっていくと分析されていますでしょうか。

 先ほどのお話にもあった通り、中国はウイルスの抑え込みがなされており、2020年4月上旬の時点で、経済の工場も順調に動いているという情報も入ってきています。これをどう見ていくかという点です。それに加えて、世界経済がどうなっていくのかという部分です。

小原 まず中国経済についてです。2020年1月~2月の時点で、中国経済の状況は非常に悪化していました。3月から正常化に向かい動き出しましたが、中国の経済担当官庁やその上にいるリーダーは、失業の発生を最大のリスクと考えていました。中国の場合、13~14億の国民に飯を食わせるという、非常に大変な課題を中国共産党が達成したからこそ、ソ連が崩壊してから何十年たってもいまだに、政権を維持できています。そのため、失業者が増えれば、社会的な不安が生まれかねません。

 そして、職を与えるという観点からすれば、いつまでもソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保つ規制を続けることは、合理的ではありません。こうした規制は感染症対策にとって最も効果的なのですが、これを続けると、経済がうまく回っていかないからです。


●特に最近成長しているサービス産業への打撃が大きい


―― ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)とはここでは、物理的な距離を取ることだけではなく、活動を止めてしまうということも含めてのお話でしょうか。

小原 社会的な距離を取るということが特に重大な意味を持つのは、サービス産業などです。例えば人が集まってご飯を食べるような飲食店では、人との距離が近くなるので、これを通じて感染が拡大します。日本では「クラスター」という言葉も使われていますが、人が一箇所に集まり、近い距離で食事やイベント活動を行うのを止めるよう、要請がされています。

 中国人はこうした活動が大好きなので、レストランや観光などサービス産業への打撃は大きいのです。航空機などの交通関係や、映画館や遊技場などのイベント関係なども、一斉にお客を失います。彼らの場合には自転車操業を行っているので、毎日の売り上げがないと、手元資金がなくなります。その結果、雇っている人に給料が支払えなくなるのです。あるいは解雇しなければなりません。これが、中国が最も恐れていることです。

―― そうすると、もちろん製造業が動いているかどうかは大きな問題ですが、問題はそこではないと。そうしたサービス業自体のお金が回らなくなってしまうと、社会不安が高まってしまうということですね。

小原 実はサービス業の比率は、アメリカや日本に比べれば、対GDPの相対的な比率は高くありません。しかしそれにしても、比率は次第に大きくなってきています。また、そうした中で、国有企業よりも、中小企業による雇用がより大きな比重を占めるようになってきています。これらが崩れていくと、失業者が増えたり、あるいは収入が減ったりして、社会不安につながります。これを何とか防ぎたいのです。しかし、それを防ぐために現在のソーシャル・ディスタンスを解消してしまうと、感染が再び増えてしまいます。第二次感染も起こり得ます。これは非常に大きなジレンマです。


●中国経済が本格的に正常化するまでにはまだ時間がかかる


小原 当初、中国経済は今までの反発もあり、第三四半期には急速に回復すると予想されていました。6パーセントは無理でも4~5パーセントほどの成長率になるだろうと考えられていました。しかし現在では、マイナス成長になるのではないかという見通しもあります。これを考えると、中国経済が回復の途上にあるのは確かなのですが、非常に大きな不確実性を抱えているといえます。

 これには、中国自身が本質的な問題をどう克服するかと同時に、非常に難しくなっている世界情勢がどう変わるかが関わっています。中国はすでに、世界経済の中に完全に組み込まれています。中国だけが良ければ良いわけではないのです。例えば輸出はどんどん減っていくでしょう。流通や航空機や船舶のような運輸にも関わります。これらについても公安が厳しく検疫を行うと、時間的コストもかかります。それが、物の流通にとっての大きな障害になっていきます。もちろん消費も冷え込みます。こうした点で、輸出や内需が伸びていきません。中国経済が本格的に正常化して経済が動き出すまでには、まだまだ時間がかかるのではないかと思います。
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