●かつて日本の製造業の強みはサービス産業的な部分にあった
柳川 それからもう一つ。今までも、特に日本の製造業の強みは実はものづくりそのものではなくて、極めてユーザーオリエンテッドな、ある種のサービス産業的な部分がある程度あったからだと言われています。
これはもうずいぶん前なんですけど、牛尾治朗氏(ウシオ電機株式会社創業者)がまとめたレポートがあり、そこに書かれているのは「日本の製造業の強みは、サービス産業的な部分にある」ということです。顧客のニーズに合った製品を提供する。そこに前回のお話に出てきたようなカスタマイズの部分も含めて、とにかく相手(顧客)が何を望んでいるかをしっかり見極めて、それに合わせて製品を作っていくというところに強みがあったといわれているのです。
ですから、今回のシリーズでお話ししているのは、ある部分ではかつて日本では相当できてきた部分なのだろうと思いますし、今でもそういうところがしっかりできている会社や製品というのは、強みを持っていると思います。
そう考えてくると、ある段階までは顧客オリエンテッドな製品開発はかなり強く意識されていたということです。もちろん、そのときの顧客というのは一般の消費者というよりは卸先の企業という場合が多かったと思うんですけれども、そういうものが、少しずつウエイトが変わってきてしまい、開発者側の意見が強くなりすぎているという点は、今までの経緯を見ると分かるだろうに思います。
●縦割り構造はどこにでもある、打破のポイントはコーディネーション
―― そうなると、なぜ日本企業がそういう形になってしまったのかというところで、よくいわれるのが日本企業は縦割りで非常に厳しくて、横の連携というものがなかなかできなくて、その大事なところが抜けてしまうということではないかと。そこについては、いかにお考えですか。
柳川 そうですね。ある種今のような話は、例えば販売部門やマーケティング部門、製造部門や開発部門など、こういうところの連携がうまく取れるようになれば、マーケティング側からきたニーズを汲み取って製品を作るなり、開発をするという連携ができることにはなると思います。よって、そうした、それぞれの部門の縦割り構造が、より消費者ニーズに合った製品開発や研究開発を阻害しているという部分はあると思うんですね。
政権全体としても、「縦割り構造の打破」という話が出ていて、こういうものは企業の内部だけではなくて、行政の中でもそうだし、官庁全体の中でも、構造としてはあると思います。
ただ、グローバルに見てみると、実は縦割り構造は世界では存在しないのかというと、実はそんなことはなくて、それぞれ製造部門は製造部門だし、販売部門は販売部門だし、下手すると日本よりも柔軟性がなく、例えばもう少しこっちを片付けてくれないかと店員さんに言うと、いや、そこは自分の担当部署じゃないから、自分はここからここまでだ、というようなことをいう国もあったりするというぐらいです。
―― それは考えてみればそうですね。
なので、ポイントはその縦割り構造全体のコーディネーションで、調整部分を誰がどこでしっかりやっているかということだと思います。
●日本ではこれまで現場レベルでコーディネーションを行ってきた
―― それはこれまでの日本だと、どのようにやってきたということでしょうか。
柳川 実は日本は、そういうコーディネーションを現場レベル、あるいは末端レベルでかなり調整をしてきたというのが非常に大きな特徴だといわれているんだと思うんですね。
―― なるほど。むしろ会社単位で動いているので、どこの部署の誰に話をするとどう動くのかというのはだいたい分かっているからということですか。
柳川 そうですね。だから、お互いにある程度どのように調整をしていけばいいかということが、長期雇用だったりするので長年の経験でよく分かっているということです。
それから、例えば現場レベルでいくと、先ほどお話したように、「自分はここまで」とか、「自分はこの仕事とやっている」と言っていると製造プロセスが回らなかったりするので、そこはしっかりとクオリティコントロールを考えて調整しながらやるということです。また、そこはまず、そういうことをやるだけの能力(調整能力)があったということでもあると思います。
―― そうですよね。だいたい日本の企業でよくあるのは、何か問題が起きると、仲がいい関連部署の人のところへ行って、「やあ、申し訳ありませんが、なんとかしてくださいよ」とお願いして、向こうも「しょうがねえなあ」と言いながらやっていくという、なんとなくその現場の関係性の中で物事が動いていくということがあります。日本の場合はマニュアルを書いて、会議...