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MRJの失敗にみる「日本のものづくり」の問題点

失敗する日本企業の構造と改革への宿題(1)「日本のものづくり」の課題

柳川範之
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
情報・テキスト
MRJ(現・三菱スペースジェット)など、日本のものづくりにおける失敗事例を参照しながら、日本企業の構造的課題と今後の展望について解説するシリーズ講義。今までの日本のものづくりは優れた技術に支えられてきた一方で、顧客ニーズオリエンテッドな視点が弱かったのではないかと柳川氏は指摘する。製品やサービス開発には、顧客はどんなニーズを持っているのか、それをどのようにカスタマイズして織り込むかが重要で、技術最優先を偏重する考えは改めるべきである。(全4話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:12
収録日:2020/11/18
追加日:2020/12/26
≪全文≫

●MRJの事例にみる日本のものづくりの問題点


―― 皆様、こんにちは。本日は柳川範之先生に、最近の事例をいろいろ参考にしながら、日本企業の失敗と今後の展望についてお話を伺いたいと思っております。柳川先生、どうぞよろしくお願いいたします。

柳川 よろしくお願いします。

―― ちょうどこのコロナで、経済もだいぶ厳しくなったこともありますけれども、日本企業のこれまで強かったというか、ここは負けないよねと思っていたところで、少しずつほころびと言いますか、失敗事例が出ているのではないかと。

 例えば直近の例でいいますと、三菱重工さんが作っていた、あのスペースジェットですね、MRJ(現・三菱スペースジェット)の事業継続が厳しくなってきたというようなニュースも流れておりますし、ものづくりが大丈夫なのかという心配も起きております。ここにきて日本企業として、どうしていくべきかというのを今日ぜひお伺いしたいと思います。

 まず、MRJ(現・三菱スペースジェット)についてです。かなり長い期間かけて開発してきたのに、うまく着地できなかったということですが、その原因といいますか、その本質はどこにあったとお考えでしょうか。

柳川 そうですね。私は中をちゃんと見たわけでもなくて、部分的な情報でしか判断できないんですけれど、やはり大きな全体のシステム開発をするときに、全体の総合マネジメントをするのが難しかったという話が漏れ聞こえてきています。

 それからもう一つ。MRJのようなものは顧客ニーズに合わせてかなりカスタマイズしなきゃいけません。そうしたカスタマイズをするときに、どこまでを標準化しておいて、どこまでを個別の顧客のニーズにカスタマイズするかといったことをしっかり考えられなかったのではないか。

 ということで、この2点はよく聞く話です。この2点は、おっしゃるようにこのMRJだけの話ではなくて、今の日本のものづくり、あるいはこれからの日本のものづくりを考えていくポイントを示しているような気がするんですね。


●今後一層求められるのはニーズオリエンテッドでの製品開発


柳川 まず先に一つ目として、顧客ニーズにどうやって合わせていくかということについてお話しします。

 日本のものづくりはすごく優れたものがあって、これはこれからもしっかり受け継いでいかなきゃいけない非常に重要な特質だと思うんですね。思うんだけれども、よくいわれる話は、これがややもすると、作る側、あるいは技術の側の要因で製品が開発されてしまったり、サービスが開発されてしまったりして、どちらかというと顧客が本当に何を望んでいるかとか、あるいは顧客のニーズに合った柔軟な対応ができるかというのがなかなかできていないというのは、今のMRJの話もそうですし、よく出る例では3Dテレビです。すごい技術で、「こんな優れたものはない」と言われたんだけれども、実際に顧客側にはそれに対するニーズがあまりなかったので、結局、今はほとんど誰もそうしたテレビは見られてはいない。そうした技術になってしまったということです。

 こういうような話が典型的で、どうやってニーズオリエンテッドで製品を開発するか、技術を高めていくかというのが、これから一層求められていくのではないかと思います。


●顧客ニーズと技術のバランスが重要


―― これは例えば、MRJの場合は、もちろん三菱重工はあれだけ長い歴史がありますし、飛行機も散々造ってきていますので、飛行機を飛ばすこと自体は基本的には難なくクリアというところだったでしょう。

 けれども、こちらも聞くところによればの話ですけれども、いわゆる航空会社が運用するために、例えばどういうような液晶パネルをつけるか、どういうようなライン(ケーブル)をを引くか、どういうような座席を置くか、というような部分や、あるいはラゲッジルームというんでしょうか、荷物のスペースをどう置くということころの設計がややうまくいっておらず、航空会社からするとそんなのじゃ使えないというような話になって、いろいろ設計し直しなどをやっている間に時間がたってしまったという話も聞きます。

 そのようなことがいわゆる先生がおっしゃった技術発想でいくと、埋められないということになるんでしょうか。どういうイメージでございましょう。

柳川 いくつかのレベルがあると思うんですね。一つは今のように、航空機というものは決まっているんだけれども、その顧客側、つまり航空会社側が、実はかなりカスタマイズしたいという欲求を持っていたと。そこで、実はそういう欲求があること自体は分かっていたのかもしれないんですけど、その欲求を前提に製品開発するというようなことが実はなかなかできていなかったのだろう。

 そういうカスタマイズしなければいけないとすると...
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