●史上初!短期間でロケット開発を進展させた「スペースX」
―― 続きまして、「スペースXに見るマスクの『つくる力』のすごさ」です。まずスペースXの歩みですが、この年表はどのように見ればよろしいですか。
桑原 スペースXは2020年に野口聡一さんを国際宇宙ステーションに運ぶわけですが、年表を見ていただくと、創業からそこまでたった18年です。
これは本当にあり得ない話です。国際宇宙ステーションとのドッキングに成功したのが2012年で、創業からわずか10年です。途中でスペースXは失敗をしたともいわれていますが、これほどの短期間で、これだけの成果を挙げた国や民間企業はもちろんおらず、史上初のことでした。
―― はい。
桑原 それを実現できたところに、スペースXという会社のすごさがあります。それだけものづくりの力が他を圧倒するものだったのであり、まだまだ国頼みの日本も学ぶところが多いと思っています。
―― そうですね。スライド内の右側が最初に成功したロケットである「Falcon 1」の写真です。次のスライドで絵が載っていますが、こんなに大きさが違うのですね。
桑原 そうです。「Falcon 1」については、商業的な意味よりも、どちらかというと練習期間だったと今はいわれています。これで小さな衛星を打ち上げるというプランもあったらしいのですが、実際にはそれはあまり考えておらず、「Falcon 1」を打ち上げてからすぐ次の開発もしているので、まさに練習期間だったのだと思います。
―― 「Falcon 1」で練習して、商業用の活用ができる本格的なロケットの開発にすぐ向かってしまうわけですね。
桑原 そうですね。
●ものづくりの特徴1:壮大なミッションと大胆な目標
―― 次に、ものづくりの特徴です。1つ目に挙げていらっしゃるのが、「『火星に人類を移住させる』という壮大なミッションからスタートしている」です。
桑原 はい。
―― やはりこの点が他のロケットメーカーと全然違うところですね。
桑原 さらに、宇宙旅行のコストを100分の1にすると。
―― はい。
桑原 これもあり得ない目標です。そして、最初からNASAをターゲットにしています。おそらく普通のロケット会社であれば、ジェフ・ベゾスや日本もそうですが、大きなロケットを打ち上げようとはしません。
―― はい。
桑原 現実的な段階から、一つひとつステップアップをしていこうとするのが普通ですが、マスクの場合は、いきなり最高の目標をまず頭に入れて、そこに最短距離でたどりつくためにはどうするかという考え方をしていきます。
いつか果たしたい夢というよりも、その夢から逆算して計画を立てていく。先ほど紹介したマスタープランもその一例です。それができるのがマスクの強さであり、スペースXのすごさです。
1つのロケットを開発しながら次のロケットの開発も進めていったり、つくったロケットをどんどん改善していったりするなど、通常のロケット開発ではあまりやらないやり方を実現できていることが、スペースXの特徴だと思います。
―― それが先ほどの速さの秘密でもあると。
桑原 そうですね。圧倒的なスピードですね。
―― はい。
桑原 コストに関しても、100分の1にするためにロケットを再利用する。今は日本などでも試みが始められていますが、難しすぎてもともとは誰もやろうとしませんでした。スペースXが実際に行ったことで、それに挑戦するところが増えてきています。
●ものづくりの特徴2:独自の内製化と絶えざる改善
―― 続きまして、「ロケット開発の技術に関して過去の常識にとらわれることなくゼロベースで」進んだというところですね。
桑原 そうですね。ロケットをまず最初はアメリカのNASAで見て、ロシアでも見て、それを冷静に分析したところ、多くのロケットの基本技術は30年~50年前に設計された旧時代の遺物だったということです。
―― はい。
桑原 これは当たり前のことですが、ロケットはやはり安全が第一です。人を乗せて運ぶわけですから、確実な技術を使う。すなわち、一度つくった技術はよっぽどのことがなければ変えません。
―― そうですね。
桑原 危ないですから。人が死んでしまったら終わりです。これまでのロケットの技術は、その意味で安全ではありますが、古いのです。その点にマスクは着目しました。
―― はい。
桑原 さらに、NASAで開発されたものの、実際には使われなかった技術がかなりあることにも着目し、その技術を使ってみようと。そして、コンピュータをフル活用することでコストダウンと開発期間の短縮を図りました。
マスクはものをつくって...