●トップに立つ人間が現場で最も働くべき
―― 続きまして、リーダー論です。
桑原 はい。
―― まず1つ目ですが、「起業家は週100時間、地獄のように働くべき」。
桑原 アメリカの起業家たちのあいだでは、社員が自分以上に働いてくれると思うなとよく言われます。
―― なるほど。
桑原 日本では逆のことが多いですね。リーダーよりも社員が働けと。しかし、(マスクの場合は)リーダー自身が先頭を切って地獄のように働けと。それで初めてみんながついてきてくれるということです。マスクは本当にハードワーカーで、無茶も言いますが、マスク自身がそうやって働いているからこそみんながついてくるのだろうと思います。
―― 週100時間って、一週間は7日×24時間ですから、相当な割合ですね。
桑原 そうですね。この前ですが、テスラで「週40時間は会社に出社せよ」というような指示を出していました。つまり1日8時間で5日間、働くということですね。ただ、100時間働くのであれば、半分はリモートワークではないかなと思いましたけどね。
―― そうですね。続きまして、「社員が苦痛を感じているなら、その何倍もの苦痛を感じたいのです」。
桑原 「モデル3」を週に5000台量産するというプランがうまくいかなかった時の話ですが、マスクはホテルにも行かずに工場に寝泊まりをして改善に努めていました。
その時に言っていたのは、別に自分はホテルに行くお金がないわけではないが、それよりも社員と一緒にがんばりたいということです。マスク自身がやはりそういうことをするので、それについてくる社員もいるのだろうと思います。
―― トップに立つ人間として、まさに先頭の覚悟をもった指揮官ですね。
桑原 そうですね。社員はなかなか帰れなくなりますが。
―― そうですね。
桑原 はい。
●「世界に役立つことをしている」、これが一番大事
―― 続きまして、「『私たちは世界に役立つことをしている』。それが一番大事で、それが私のモットーです」。
桑原 これはマスクがスペースXやテスラでよく言っていることです。これは、マスクがリモートワークをやろうという会社が世界のために何かすごいことをしたのかと、喧嘩を売るようなことを言っていたことにも関係します。おそらくマスクにしてみると、自分は世界のために貢献しているし、頑張っていると。これはスティーブ・ジョブズも言っていたことですが、自分が生きている以上は人類や世界のために何かを残したいと。リーダーがそのような大きなビジョンを掲げることは、とても大事だと思います。大きすぎる目標ではありますが、それをやれるということが、社員のやり甲斐につながっていくのだと思います。
―― やはり何か新しい世界を切り開く人は必ず、世界に役立つ、世界を変えるというビジョンを持っているのですね。
桑原 そうですね。だから日本でも、戦後は松下幸之助さんや本田宗一郎さん、井深大さんたちは、日本のためにと大きくおっしゃって、実行されていました。リーダーにはお金を儲けることや会社を大きくすることとは別の壮大なビジョンが欲しいなと思います。
―― 続きまして、「明るい未来を信じられる仕事を創ること、それこそがリーダー自身の誇りにもつながっていくと思うのです」。
桑原 日本消滅や、地球がいずれ滅びることについてマスクは言及しています。したがって非常に悲観論者であると受け取られる恐れがあるわけですが、マスク自身はそのような社会にしないために自分は働いているという言い方をしています。
多くの人にとってはすごく遠い危機ですが、マスクにしてみれば、おそらくすぐそこにある危機なので、その危機を少しでも先延ばしする、あるいはその危機を回避する。そうすれば、子どもたちも含めたみんなの明るい未来を信じられるではないかと。そういう社会を自分はつくりたいのだという点で、電気自動車やロケットなどの全てがつながっていきます。
これはおそらくリーダーであるマスクの本当に誇りだろうし、そこで働く社員にとっての誇りなのだと思います。
―― そうですね。スペースXにしても、単に宇宙旅行をするという話ではなくて、火星での居住や開発というビジョンになってくるわけですからね。
桑原 そうですね。今の時代、お金持ちは高いお金を出せば宇宙にすぐ行けますからね。
―― はい。
桑原 しかし、マスクはそんなことはまったく考えておらず、カリフォルニアに家を1軒建てるぐらいのお金で火星へ移住できるようにしたいのだと言っています。その壮大な夢に向かって、頑張っているのだと思います。
―― はい。