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リーダーが持つべきセンスとは何か

「逆・タイムマシン経営論」で磨く経営センス(2)「日本沈没」と言いたい人々

楠木建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授
情報・テキスト
リーダーが持つべきセンスというのは、ネガティブなものの中にポジティブな面を見いだし、それを言語化することだ。そして、その言葉は、形容詞や副詞で飾り立てられたものであってはならない。無理がなく、かつ楽しい未来を描けるなら、共感は広がり、ビジョンの実現に向けて前進できるだろう。(全3話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:13:27
収録日:2020/09/18
追加日:2020/11/05
タグ:
≪全文≫

●夏の暑いときに、「寒くない」と言えるか


楠木 リーダーは、夏の暑いときに、「いや、今、寒くないな」と考えられる人だと私は考えています。

―― なるほど。

楠木 今、寒くないからこれができると考える。逆に、みんなが「寒い、寒い」と言っているときに、「いや、少なくとも暑くないじゃないか」と言えるのが、リーダーだと思うのです。ですから、例えば、今後、間違いなく人口は減少していき、その過程では、社会保障などの非常に深刻な問題が発生して、国全体としての資源の再配分が必要になります。ただ、戦争よりはましだと思うのです。

―― 確かにそうですね。

楠木 焼け野原にはなりませんから。

―― 社会保障費が増えても焼け野原にはならないと。

楠木 日本は世界で最初に、高齢者人口の絶対増が止まるのはもうほぼ間違いないことで、いつか定常状態に入るわけです。人によっていろいろなことを言いますけれども、7000万人とか7500万人くらいだとすると、それは昭和20年、終戦時の日本の人口ですよね。であれば、十分に、7000万人の日本で、ポジティブな絵が描けるのではないかと思うのです。昔は、一生懸命減らそうと思っていたくらいなので、絶対に何かいいことはある。

 例えば、全く日本について知らない人に、日本の地図を見せて、「極東にこういう国があって、これくらいの面積で、こう縦に伸びています。ざっくり国土の7割が森林で、そこには人はなかなか住めないのですが、この国の人口は何人くらいが適性だと思いますか?」と聞いたら、「まあ、1000万人かな」と言うと思うのです。

―― なるほど。

楠木 もちろん地理的にも歴史的にも日本と状況は違いますけれども、実際、ヨーロッパの成熟した国、例えば、大国のドイツも人口は日本よりもずっと少ないわけです。さらに、北欧の国とか、オランダとか、スイスといった小国でもやっていけているわけです。だから、少子化に歯止めをかけて、一億総活躍というのもいいのですが、日本の置かれている状況を「寒いけれども、暑くはない」と捉えて、もっと現実を直視して、少子化を逆手に取るビジョンを、国内外に示していただきたいなと思っています。

―― リーダーのセンスというのは、そういうものなのですね。

楠木 ポジティブなものを見ることができるというのは、リーダーが持つべきセンスの中で中核的なものだと思います。それは単なる楽観主義とか、のんきだというだけでなく、人によっては、最もよくないもの、ネガティブに見えることの中にポジティブなものを見て、人々を巻き込む言葉を発することができる。

―― ポジティブなものを言語化できるということですね。

楠木 言葉は光ですからね。

 そういうものは、リーダーのセンスとして非常に重要だと思います。ですから、例えば、「人口7000万人の日本」というお題でどんなビジョンを描けるか。こういう課題を出してパッと答えてもらうというのは、わりといいセンスのリトマス試験紙になるのではないでしょうか。

―― センスがあるというのは、そういうことなのですね。そして、センスがありそうな人のセンスを磨かせればいいわけですね。


●リーダーは無理のない未来を描け


楠木 私は、センスの1つの側面として、無理がないということがあると思っています。

―― 無理がない?

楠木 ええ。その人に無理がないからこそ、みんながついていきたくなる。今の日本の状況下で、少子化に歯止めをかけるというのは、「目指せ、甲子園」と言っているようなものですよね。それはいいことではあるのですが、「そうか?」と思う人も多いわけです。つまり、少子化を1つの進歩と捉えられるかどうかということです。

―― そうですよね。

楠木 どんな国でも、社会の進歩とか成熟に伴って、非婚、晩婚が進み、それが少子化につながる。ほとんどどの文化圏でもそうなっているわけです。つまり、若いとき、一定の年齢までに、ほぼ全員が結婚していたというほうが、社会として変だったのです。

―― 確かにそうですね。

楠木 それは、(当時は一人では)食っていけなかったからだと思います。

―― 飯が食えなかったからだということですね。

楠木 だから、強制的にみんな結婚する道を選んでいましたが、オプションが増えれば、「まあ、結婚しなくてもいいかな」という人が出てくるのも、これは社会進歩だと思うのです。これは必然であって、すごくいいことがいっぱいあるはずなのです。

―― 本来は、確かにそうですね。

楠木 これを企業経営という観点で見たときに、「少子高齢化で国内需要が頭打ちになるという閉塞感の中で、なんとかなになにをせざるを得ない」と、夏にその他の人と一緒になって「暑い、暑い」と言ってどうするのよと思うのです。

―― リーダーは違うだろう...
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