インテリジェンス・ヒストリー入門
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日本は近代化の過程で情報分野だけ学べなかった
インテリジェンス・ヒストリー入門(2)明治日本の文明開化
中西輝政(京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者)
日本はインテリジェンス分野に向いていない、情報無関心国家なのか。歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏が、なぜ日本の近代化の過程にインテリジェンスが欠落してしまったのか、その理由を解説し、日本人の国際社会観の転換を迫る。インテリジェンスは国際社会でサバイバルしていくための必須の課題だ。(全11話中第2話)
時間:13分39秒
収録日:2017年11月14日
追加日:2018年5月8日
カテゴリー:
≪全文≫

●日本ほど見事に情報で国を治めていた国家はない


質問 日本の歴史の流れの中で、インテリジェンスはどのように考えられてきたのでしょうか。

中西 インテリジェンスの研究をしていると、「日本人にはこういう分野は向いていないんじゃないですか」「日本は情報軽視でずっとやってこれたんだから、欧米や中国のように情報重視の国にはなかなか変わりませんよ」といったことを言う人をよく見かけます。

 しかし、これは完全に間違っています。古代史から日本の歴史を調べてみると、戦国時代までは、日本ほど見事に情報でもって国を治めていた、あるいは発展していた国家はありません。アジアの資源も何もない、いわば絶海の孤島で、日本は何千万人もの人口を養って、江戸時代までずっと発展し続け、高い文化を保ってきました。しかもほとんど平和です。

 ただし、蒙古襲来や、例えば白村江の戦いのような朝鮮半島の動乱は、古代から頻繁に経験してきたのも事実です。これを乗り越えてこれた大きな要因は、実はインテリジェンスにあったわけです。こうしたことは昭和になってようやく研究が始まったことですが、結局敗戦でパタッと途切れてしまいました。日本の古代中世の諜報史を扱った本が、昭和10年前後にたくさん出ているのですが、今では古本屋でも手に入りません。それほど戦後は、おざなりにされてきた分野なのです。


●商社の伝統は、江戸時代の藩の情報によるものだ


中西 日本民族の情報能力について言えば、重要なことは江戸時代がその大きな陥没期であったということです。鎖国によって平和が保たれた一方、情報のことをあまり考えなくなってしまったのです。

 ただし、幕府や藩は情報を集めていました。幕府は隠密を放って、幕藩体制の維持に努めましたし、薩摩藩や佐賀藩では、海外との密貿易が行われていましたから、情報をたくさん持っていました。しかしこうした情報は、商売向きのものです。貿易や財政にとって必要な情報がしっかり集められていたからこそ、明治になって、三井や三菱のようなしっかりした世界総合商社があれだけ短期に出来上がったのです。商社の伝統は、江戸時代の藩の情報によるものです。

 長崎の出島の情報はその典型です。あるいは、新井白石も「情報あっての徳川の御代だ。情報こそ徳川を支える手立てだ」というようなことを言って、潜入してきた外国人の修道士を自...

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