インテリジェンス・ヒストリー入門
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戦後日本はなぜインテリジェンスを軽視してきたのか?
インテリジェンス・ヒストリー入門(3)戦後日本の構造
中西輝政(京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者)
戦後日本はなぜインテリジェンスを軽視してきたのか。そこには左翼勢力の反発、霞が関の権力争い、そしてアメリカという、情報を軽視せざるをえない構造があった。歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏が、昭和初期から戦後に至る日本のインテリジェンスの歴史を振り返る。(全11話中第3話)
時間:10分30秒
収録日:2017年11月14日
追加日:2018年5月9日
カテゴリー:
≪全文≫

●情報のノウハウを近代国家が身に付けるには3世代かかる


質問 昭和になると、小野寺信氏や杉原千畝氏のような陸軍系の情報将校が出てきます。昭和期のインテリジェンスはどうだったのでしょうか。

中西 日本は明治からインテリジェンスの獲得に苦闘してきました。明治時代には、海軍の情報部などに明石元二郎などの、個々の素晴らしいインテリジェンスオフィサーが出てきます。しかし、それが定着するまでには3世代の時間がかかりました。陸軍大学を出た俊秀が欧米に留学して学んできたものが、組織的なノウハウ、知識として蓄積されて、花開いたときに出てきたのが、小野寺氏や杉原氏のような人材だったのです。すでに時代は昭和になっていました。

 陸軍中野学校のレベルも随分と高いです。教育内容の点でも、指導的な教官のレベルにしても非常に高度です。しかし、中野学校の設立は10年遅かったと言わざるを得ません。中野学校が実際に発足したのは昭和13年ですが、最初は「後方勤務要員養成所」という名前でした。昭和15年に中野学校に名前が変わりますが、これが昭和3年ごろ、満州事変の前にできていればと思います。もしそうだったら、日本の運命は変わっていたでしょう。それほど大きな意義があったと思います。

 昭和13年(1938年)といえば、支那事変、いわゆる日中戦争がすでに始まっていて、たけなわになっている頃で、戦時体制です。そういう時に、例えば情報要員をロシアやアメリカ、イギリス、ヨーロッパに派遣できていれば、大きく違っていたでしょう。あるいは同盟国になろうとしているドイツです。ドイツは本当にソ連と戦って勝てるのか、それほど工業力が回復しているのか。こうした地道な情報を集めてきて、日本に伝えられればよかったのですが。これが可能な人材は、あと少し中野学校の創設が早ければ養成できていたでしょう。

 人材育成が追いつかないため、当時は陸軍の主計将校のような人が流用されていました。彼らは経済や産業の知識を持っていて、そこにはインテリジェンスの要素も確かにあります。しかし、やはり秘密情報を、しかも外国で集めるというのは、主計将校の本来の仕事ではありません。彼らの仕事は統計を扱うといったことに限られています。

 中野学校の創設がもう5年早ければ、ドイツはソ連には勝てないし、まして英米を相手に近代戦を戦っても3年は持たないということが...

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