インテリジェンス・ヒストリー入門
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杉原千畝はものすごいインテリジェンスオフィサーだった
インテリジェンス・ヒストリー入門(10)情報官・杉原千畝
中西輝政(京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者)
かつての外務省には、情報という仕事に驚くほど熱心に取り組んだ人びとがいた。杉原千畝は命のビザで有名だが、むしろ彼は戦前の優れたインテリジェンスオフィサーだった。歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏が、情報官・杉原千畝について解説する。(全11話中第10話)
時間:7分23秒
収録日:2017年11月14日
追加日:2018年6月27日
カテゴリー:
≪全文≫

●地域に全身全霊をかけてコミットする外交官が減った


質問 今と昔で日本の外交官、大使はどう変わったのでしょうか?

中西 今では大使というと、事務処理係の責任者にすぎません。しかし、戦前の外務省には赴任国に5年も6年もいて、現地の言葉で人びとと付き合っているような人がいました。いわゆる口頭試験を受けて外交官になったいわゆる「科挙組」とは違う、叩き上げの外交官です。

 今では試験制度も変わりましたし、そうした人は減りました。地域専門官や、昔で言う中級試験の人、あるいは語学研修から上がった人でも、国家公務員Ⅰ種を通過した人と変わりません。みんな、どこかサラリーマンの事務処理係みたいになってしまっていて、地域のことに全身全霊をかけてコミットしている人は減りました。日本の外務省はそうした意味で、戦前の方がやはり力があったでしょう。こうした人材が日本を大きく支えていたのだと思います。


●杉原千畝はものすごい情報官だった


質問 かつての外務省には、インテリジェンスがたくさんいたのですね。

中西 非常にレベルの高い人がいました。もちろん陸軍にもいたでしょう。彼らの情報という仕事にかける熱心な取り組みには、驚かされます。

 例えば、杉原千畝はもともとハルビン学院出身の語学外交官です。彼が偉いのは、命のビザといったことだけではありません。あれは一時の話です。むしろ本当に見るべきところは、彼がものすごい情報官だったということです。情報のインテリジェンスオフィサーです。そもそも終戦で日本に帰ってくる時に、ソ連を通って帰ってくるでしょうか。彼だけ遅れて、単身で大陸を横断しているのですが、普通はそんなことはできるはずがありません。戦前に満州国の外交官として、東支鉄道の買収などでソ連外務省と丁々発止にわたりあい、関東軍の情報部でも機密情報の面で軍と協力していました。

 彼はコーカサスの分離独立運動にまで関わっていたのです。ソ連の人民の敵です。そんな人が、いくら敗戦国になったからといって、ソ連を通過して無事に日本に帰ってこられるはずはありません。ところが正式のビザで通ってくるわけですから、不思議です。

 しかも戦後、あれほど早い時期にモスクワに何カ月も滞在していますが、もし札付きの戦犯だったら普通、商用ビザは下りません。しかし戦犯にもならないし、ソ連代表部もGHQを通じて逮...

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