●忍者ならではの道具
―― あとは、やはり興味を引くのは忍術ですね。第2話で手裏剣の話がありました。忍者ならではの道具というものがあるかと思うんですが、実際、忍術とか、忍者ならではの道具というのは、具体的にどういうものだったんでしょうか。
高尾 先ほど(第3話)取り上げました『万川集海』という忍術書があります。そのなかに四つ書いてあります。グループ別なんですが、登器、開器、火器、水器、この四つに分けて解説されています。
登器には、例えば石垣を登る道具もあります。よく知られているものに「くない」という鉄の楔(くさび)のような道具があるんですが、そこを足止まりにして石垣をよじ登っていく。そういったものがいろいろ絵付きで書かれています。
開器には、例えば「坪錐(つぼきり)」というものがあるんですが、それは塀に穴を開けるための鉄で造られた道具のことです。それから火器ですが、例えば矢のところに火薬を詰めて、火の広がりを早めたりするというものがあります。ほかには、投げ爆弾のようなものもあり、そういったことがいろいろ書かれていたりします。
―― それは火付けのときに。
高尾 はい。
●水器「水蜘蛛」の使われ方
高尾 水器とは水のなかを移動していくための道具で、よくいろいろなところに書かれているのが「水蜘蛛」というものです。
―― 輪っかの形をしていて、足にはめて使うイメージですね。
高尾 そうです。それが水器の一つなんですが、よく漫画で出てくるのは、二つ使って、それを足の裏にはめ、ミズスマシのように水の上を移動していくというものですね。ただ、あれはできないでしょうね。
―― 進まない、と。
高尾 進まないですね。浮いたとしてもバランスを崩して、水のなかにポチャンとなるでしょう。僕が子どもの頃に読んだ忍者の解説書のなかには、右足を水のなかに入れると右足が沈みますので、その間に左足を出す。すると、左足が沈みますので、その間に右足を出す。そのように使うと、水の上を進んでいくというんだけど、そんなバカな話はないでしょう。
―― 絶対、ダメそうな感じがしますね。
高尾 絶対ダメです。だから、そのように水蜘蛛の使い方を試したとしても、同じようにはできないわけです。実際どのように使われたかというと、水蜘蛛の輪っかになっている部分がかなり分厚く、数十センチぐらいあり、それが木の塊でちょうど木の浮き輪のような形になっています。従来、足の裏を載せると考えられていたのですが、載せるのはお尻で、浮き輪のようにして水の上を移動するというものです。そのように使われたんじゃないかということで、実証実験でもそのような結論になっています。
―― それならばできそうだというところですね。
高尾 はい。
―― これは伊賀ならではなのか、それとも全国でいろいろな移動の仕方があるんですか。忍者の道具の違いについてお聞かせください。
高尾 浮き袋という、袋状にして、本当に浮き輪のような形にするというものもありますし、空気を溜めて鼻や口から吸う、そういう道具も書いてあるようです。ですから、水のなかを移動するというのは、たぶんお堀を渡るための道具だろうと思うんですが、そういうしたことがいろいろ考え出されていたようですね。
●「忍者の末裔」の仕事
―― ちょうどそのような形で活動してきた忍者ですけれど、ある意味では忍者がずっと活躍してきたことを証明するのが、江戸期以降、史料が整った後も伊賀者として仕事をしていた人たちです。高尾先生はちょうど『忍者の末裔』(KADOKAWA)というご本を発刊されています。これが非常に面白い経緯で古文書に行き当たったということですが、本のなかの主人公である松下家が伊賀者で、幕府に仕えた人たちだったということですね。
高尾 はい。発見された経緯についてはその本をお読みいただければ分かるんだけど、私の古文書講座に来ていただいていた松下さんという方が、徳川幕府に仕えた伊賀者の末裔の方で、いろいろな古文書をお持ちでしたので、その史料を拝見し、その結果をまとめたのが、先ほどご紹介いただいた本(『忍者の末裔』)ということになるんです。
その本に書かれているのは、先ほど紹介した忍者と重なる部分もあるし、ずれる部分もあるんですが、江戸時代の忍者のことです。いろいろな役目があり、主な任務は情報探索と守衛です。
●大奥の守衛から事務官へ~伊賀者の変遷
そのほか、忍者とは関係ない事務仕事も課せられています。そういう様子がいろいろ分かって面白いのですが、特に幕府の伊賀...