●インテリジェンスは「早く見つけ、おもむろに行動する」
質問 先生は今、インテリジェンス・ヒストリーについて著書を執筆されているそうですね。なぜ今、インテリジェンス・ヒストリーが必要なのでしょうか。
中西 インテリジェンスは、国家、国、あるいは組織、人間の集団に関わるものです。国家の安全や繁栄は、国民が大きな希望を持って未来を切り開いていかないと実現できません。社会の安定や、国民の精神の健康の維持は、政治の根本目標です。
したがって、どんな組織でもそうですが、特に国をどう動かしていくのかということは非常に大事なことです。国家運営の要諦として、私は40年ぐらい国際政治の歴史を勉強し、著作を書いてきました。イギリスを中心に勉強してきましたので、イギリス風の格言で言いますと、とにかく時々刻々、国際環境なり政治が取り組む状況は変わりますので、国家の行動と選択にとって重要なことは、何よりも「早く見つける」ということです。
しかし、インテリジェンスは早く情報を集めて、的確に分析するということだけでは終わりません。なぜインテリジェンスが大事かというのは、その次の話も関わってきます。つまり、集めて分析した情報をもとに、どのような行動に出るか、どのような対処をするのかも重要になってきます。行動に移るためには、時間が十分に必要です。したがって、インテリジェンスが重要なのは、「早く見つけ、おもむろに行動する」という組み合わせを可能にするからなのです。
ところが、えてして日本の近代の歴史あるいは組織の行動形態を見ていると、情報を見つけるのが非常に遅いのです。遅く見つけて、慌てて行動するというのでは、やはりろくな結果になりません。インテリジェンスで一番大事なのは、なるべく早く、なるべく的確な情報を見つけることですが、それは行動に移す際の余裕と時間を持ち、より良き選択ができるようにするためなのです。
●情報に支えられていなければ、交渉の潮時は分からない
さらに、交渉事においてもインテリジェンスは重要です。国家の交渉といえば、外交です。外交では、とにかく粘り強く主張することが肝心です。国際社会においてものすごく大事なことは、明確に粘り強く、こちらの主張を一歩も譲らないという姿勢で頑張ることでしょう。ところが、物事には潮時というか、ここぞという場面があります。そこを...