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中国が各国の政治を内側から侵食し始めている

インテリジェンス・ヒストリー入門(5)中国の影響力

中西輝政
京都大学名誉教授
概要・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏は、世界のインテリジェンスに起きている大きな変化の一つとして、中国の影響力を挙げる。中国が各国の内政を内側から侵食し始めているのだ。さらに、民主主義社会にとって大きな脅威は、情報環境の変化である。日本は情報に対する免疫力を高められるのか。(全11話中第5話)
時間:09:00
収録日:2017/11/14
追加日:2018/06/10
カテゴリー:
≪全文≫

●中国の影響力が各国の政治を内側から侵食し始めている


中西 世界の情報機関に起きている変化として、もっと具体的なことを一つだけ付け加えておきましょう。それは中国の影響です。少し生々しい話になりますが、TPPの11カ国合意について振り返ってみましょう。アメリカはTPPから抜けましたが、残りの11カ国で何とか大筋で合意するところまでこぎ着けました。ところが、合意に至る過程で、最初ニュージーランドが難色を示しています。日本が中心になって推進しているTPPに待ったをかけたのです。

 これはニュージーランドの政権交代が背景にあります。番狂わせの選挙で、女性の首相が急に出てきました。選挙前には、ニュージーランドの中国系の国会議員が摘発されています。チャイナマネーを使って、与党の中で政治工作をしていたからです。それがマスコミ、メディアにまで及び、ついには選挙の結果がひっくり返ってしまいました。

 TPPに対する態度から始まり、どうも今のニュージーランド政権は、以前とは様変わりしています。オーストラリアも同様で、ニュージーランドほどひどいことにはなりませんでしたが、やはり中国の影響力が水面下で国内に入ってきて、政治、経済、メディアなど、重要なところに相当程度食い込んできています。東南アジアになると状況はもっと深刻です。

 このように、中国の影響力は経済面だけで終わるわけではなく、各国の政治を内側から侵食し始めています。まさしく孫子の兵法の国です。欧米諸国にも中国の影響は及んできています。特に今、中国を問題視し始めているのは、イギリスやドイツです。中国の自制を求め、外交で何とか対処しようとしていますが、容易ではないでしょう。こうした影響力を防ぐという点で、日本の能力は高くありません。

 今、世界のインテリジェンスの最前線として重要なのは、ITやSNSといった技術面と中国の影響力という2つの分野でしょう。中国が要するに裏のお金を使って、各国の内政を内側から掘り崩すような工作活動を、非常に頻繁に行い始めています。

 これまでの話をまとめると、日本が第1にすべきことは、分析の力を整備することです。地味でもいいから、分析能力をしっかりとしたものにすることが重要です。第2に、今からでも遅くはないので、情報を取られたり操られたりしないような防護策を真剣に考えていくということです。この2つが大切です...
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