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日本が開戦後に行った省庁再編、実態は「縄張り争い」

近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(7)非常時の省庁再編とその実態

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家
情報・テキスト
第2次世界大戦中、非常時に対応する名目で省庁再編が行われた。外交や行政を円滑に進めることが目的だったが、実態は「縄張り争い」だった。その結果、どうなったのか。省庁再編によって起こった内実に迫る。(全9話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:14
収録日:2021/05/31
追加日:2021/09/15
≪全文≫

●省庁再編の実態は「縄張り争い」だった


片山 省庁再編の問題については、「非常時に対応するために省庁の再編が必要だ」と言うわけです。ところが実際は、平時と同じく、縄張り争いがあるのです。

 例えば、「興亜院(こうあいん)」という機関ができました。「中国についての外交は外務省ではなく興亜院がやる」ということで設けられた。しかも、陸軍の紐付きにするというのです。つまり、中国に関する外交は、外務省にいちいちお伺いを立てていると面倒だから、実際に軍隊を展開している陸軍省絡みで押さえておきたいということです。そして、対中外交を外務省から分離してしまいたい。これは役所の縄張り拡大の理屈でしょう。

 確かにそのほうが効率的な面があるかもしれません。しかし、外交の素人である人間を集めて興亜院をつくり、そこに軍人が付いても、外交などできるわけない。しかも、日中戦争をどのように収めるかが、まさにこの戦争が始まって以来の日本の最大の課題なのです。ですが興亜院の開設は、国際関係の中で外交を円滑に進めることを難しくする不効率化の極みです。にもかかわらず、機能を分離してくるということです。

 また、大東亜戦争が始まってから大東亜省ができました。これは大東亜共栄圏ができることを前提に、まだできていないうちから1つの帝国の論理を行おうとするものです。外務省は、対等な国と国との間で交渉するという発想で、近代国家としてあるものです。大東亜省はそうではありません。対等外交ではなく、でも日本の領土内ではない、言葉は悪いのですが、植民地・半植民地という属国的な形で日本が上から従属させるエリアで大東亜共栄圏をつくっていくことは、外務省流のやり方でできるわけがない、というのです。

 しかも、全て占領し、戦争が終わってから大東亜共栄圏をつくるのならいいのだけれど、戦争の途中で始めるわけです。対等な国家間の交渉ではなく、大東亜共栄圏の中でのそれぞれのすみ分けを、外務省の対等外交ではないレベルで行おうとする。

 大東亜共栄圏は外務省の論理ではできないから大東亜省の論理が必要だということで、興亜院や拓務省といったもので行う。また、外務省の中のセクションからも人材をいただかなければいけない。そういった形で、アジアの話を外務省から切り離すのです。

 しかし太平洋戦争、大東亜戦争をしているときに、外務省からアジアの外交を全部切り離したら、外務省はどの国と外交するのでしょうか。アメリカやイギリスのような戦争をしている相手国とは外交のしようもないので、中立国と外交するしかありません。巨大な官僚機構なのに、外交をする対象が限られてしまい、せっかくの才能を数多く抱えているのに、機能しない死に体にしてしまうのです。

 このようなことを行っておきながら、「効率化する」と言っているわけです。大東亜省と外務省で外交を二元化することで効率が良くなるはず、と言うのです。

 繰り返しますが、大東亜共栄圏ができた後ならば、そういったシステムも必要かもしれませんが、まだつくっている途中です。どうなるか分からない中で、戦争を解決するためには外交が大事なのだから、外務省の機能を落としてどうするのだと思います。ですが、大東亜共栄圏をうまくつくっていくということと、今は戦争の途中だということが混乱していて、全く別の論理で動いているのです。

 結局、縄張り争いなのです。例えば拓務省は植民地支配を考えていた役所ですが、対象が朝鮮や台湾ということになると、今度は「内鮮一体」などと言って、内務省が朝鮮を取りにくるわけです。「拓務省といっても朝鮮総督府を支配しているわけではない、朝鮮総督府の総督はとても偉くて独立性がある。関東軍のようなものだ」などと言って、朝鮮総督府を内務省の下に組み込もうとする。「朝鮮は日本なのだ。いつまで朝鮮を別立てにしておくのだ。内務省は日本の国の中のことなのだから、内務省がやればいいのだ。朝鮮総督府は独立性を低めていって、内務省の下に入れてしまうのが正しいのだ」と。

 これは縄張り争いでしょう。戦争をしているときに、そのようなことに一生懸命となり、新しいシステムをつくろうとしてどうするのでしょうか。


●日本は非常時でも組織を作り変えてしまう


片山 次に軍需省です。これも農林省と商工省で、第1次産業と第2次、第3次産業で分けていたのです。ところが、戦争、特に対米戦争で、生産力の勝負になる。飛行機を多くつくらなければいけないとなってくる。すると、「農林省と商工省で、第1次と第2次、第3次で分ける意味があるのか。軍隊は、食べ物も要るし、飛行機も要る。第1次、第2次、第3次の縦割り行政ではいけない。軍の必要なものはまとめて軍需省にして、民需省と軍需省に分けるべきだ。平時の行政のように...
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