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日本人は「ルサンチマンの政治」を止めて歴史の教訓に学べ

近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(9)亡国の危機と政治の見直し

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家
情報・テキスト
このままでは日本も滅びかねない。ルサンチマンの政治は終わりにしなければいけない。そう強く語る片山杜秀氏。日本の行政を立て直すため、かつて近衛内閣と東條内閣時代に構想されたもの、その失敗の歴史を踏まえ、平成の政治改革を今こそ見直す時期に来ているという。(全9話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:18
収録日:2021/05/31
追加日:2021/09/29
≪全文≫

●平成の政治改革を見直す時期に来ている


片山 そう考えると、内閣府を強化しているつもりが、参謀本部的に強力になっていないともいえる。ありとあらゆることで内閣府は、官邸、官房を助け、下位の全官庁にいろいろなアイデアを出させると言うけれど、東條内閣時代の行政の参謀本部構想もそうですが、これは下位の官庁より優秀な人間が多くいなければ無理なのです。

 ところが実際、人事の異動でも、アメリカ大統領が非常に才能のある人間を多く集めてくるようなことが、日本ではできていない。非常に半端な形でしかできていないし、規模も小さい。内閣府は大きな役所ですが、行っている業務を考えると、全ての官庁ににらみを利かせようと思えばそれができるだけのスタッフがいるとは思えない。言葉は悪いのですが、出向している人が「溜まっている」ようにしか見えない。各特命担当大臣も、強力な専任スタッフを持っているわけではない。そういったことを考えると、やはりアイデア倒れに終わっている。

 それが、近衛内閣時代の構想と東條内閣時代の構想のハイブリッドとして、1990年代以降の政治改革の結果の安倍政権や菅政権の有りようであり、(実際に)特命担当大臣というものを止めるなどと言い出す人はいないでしょう。「内閣府解体」と言っている人も、有力な政治家では聞いたことがありません。

 私は、特命担当大臣や無任所大臣、また東條内閣時代に期待されたものが内閣府的に今うまく機能しているのかなど、一回全てを見直す時期に来ていると思います。政治改革がうまくいっていないことが、今の日本の政治の混乱で示されていると思うのです。


●日本の政治において「制度を変えれば何とかなる」は間違い


片山 そうすると、どうしたらプラスになるのか。これは難しい問題です。各官庁のやる気を出させるために上層部が人事権を濫用できるかのようにする、といったことは無理でしょう。現在の地球環境問題にしても、疫病問題にしても、科学技術が次々と発達している時代には、技官、テクノクラートといった専門家が必要だと思います。ただ専門家にトータルで見る認識が不足しているのなら、やはり政治家が大事になります。

 官邸、官房、内閣府、規制官庁など何段構えみたいに行政を複雑にするのはやめて、昔のように総理大臣が仮に調整役でもいいかもしれない。そして、各官庁にやる気を持たせ、能力を最大限に出させる。しかも、官庁の編成や、いざというときの官庁の上下関係などをフレキシブルにする体制をつくらなければいけない。

 ずっとあって大丈夫(な制度)といったものを1度つくってしまうと、必ず官僚制の弊害が生まれ、自分たちが生き残ることしか考えなくなってきます。いかにフレキシビリティを担保しながら、今の世の中に必要な官庁の組織を柔軟に編成しながら、特定分野の専門家をきちんと設けるか。

 時代は次々と変化するからと言って、5年後、10年後にいきなり思いもかけない専門家が数多く必要になるという事態は、きちんと時代を読んでいれば起こらないはずです。脱炭素をどうするか、電気はどうなるか、外交戦略はどうするか――こういったことは今すでに課題として分かっていることなので、5年後、10年後になって初めて、「こんなことが問題になるとは驚きました」というのはないでしょう。

―― そうですね、それは。

片山 確かに今後どうなるか分かりません。一寸先は闇の世の中です。けれども、何が問題になるかくらいは分かります。あるいは、何が問題になるかということが分かる官庁組織にする。企業と違って政府は大変かもしれませんが、政府はそうすべきだし、企業はますますそうすべきですね。

 そうでなければ、日本の言っていることが滅茶苦茶になってきています。日本の産業構造を考えれば、(いきなり)脱炭素化したら産業が全て崩壊してしまうのではないかと思います。けれども、政治家がそれを真面目に考えている雰囲気はありません。「〇〇パーセント削減などと外国に向けて言えば、とりあえずウケるかな」くらいにしか思っていない雰囲気を感じます。これではもう亡国でしょう。

 そういった具合に政治家が暴走しても困るし、そういうときには専門家がきちんとしなくては困るわけです。専門家が専門家会議のためにその時々で集められて、会議のたびに言うことが変わり、責任も取らないのでは困るので、やはり官庁が責任を取らなければいけません。行政の各専門の組織が「この分野に関しては絶対こうすべき」という形で総理大臣を支えて、政党とコラボレートする。結局、制度を変えれば何とかなるというのは、日本の場合、間違えていることが多いと思います。

 伊藤博文が「明治憲法体制は失敗した」と思って直そうとしたくらいの初心に返り、あまり複雑にしすぎないことです。も...
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