●「マスタープラン2」で自動車業界の大変革「CASE」全てを実現させる
―― 次が「マスタープラン2」です。先ほどからお話のあったものですね。
桑原 この「マスタープラン2」は2016年に発表したものです。具体的内容としてはまず、化石燃料のようなエネルギーに依存しなくてもいい社会をつくることを目指して、エネルギー生産と貯蔵を統合すると。そのためにバッテリー工場を持ち、ソーラーパネルもつくっています。それからソーラーシティという太陽光の会社も持っていますので、それらを組み合わせることによって一人一人が電力会社に頼らずに電力をつくって、それを利用できる社会をつくりたいと。
これは全てマスクのところでできます。あとはどこまでやれるかだけだと思います。
―― はい。
桑原 全ての主要セグメントをカバーすることに関しては、トラックやバスなどに関しても、非常にカッコいいものを発表しています。まだ生産は遅れていますが、そういった大型の車両にまでいけば、電気自動車の時代はかなり早くやってくると思います。
―― はい。
桑原 次に自動運転です。これは日本のメーカーも当然やっていますが、マスクの会社やグーグルなども開発がかなり進んでいます。今、車を完全に自動化できるレベル5に近いところまできています。
マスクの考える理想は、車に乗り込んで、行き先を指示すれば、眠っていても到着できることです。法律的な問題などもあり、すぐには実現できませんが、それを実現するソフトウェアはおそらくこの1、2年のうちには全部装備できるとマスクは豪語しています。
―― なるほど。
桑原 それからカーシェアリングですね。これは車を使っていない間に、オーナーがその車を使って収入を得られるようにする事業です。
これらのプランは、「CASE」という100年に1度の改革といわれるスローガンの全てをテスラが実現できるという宣言だと思います。
「CASE」の「C」は「つながる」です。ネットとつながるという意味です。テスラの車は全てタッチパネルで、ネットも使っていますし、スペースXが「スターリンク」という衛星とインターネット回線を持っていますので、全て自前で「つながる」が実現できます。
「A」は「自動化」です。これは自動運転です。自動運転技術に関しても、テスラやグーグルはかなり高いレベルにあります。時々事故を起こしたりして問題になっていますが、基本的には、もう操縦しなくても運転ができるようなレベルに近づいていると思います。
「S」は車のシェアリングです。これは先ほど触れたカーシェアリングのことです。これまで、車は個人が持つのが当たり前でしたが、車を共有していく時代を見据えています。
「E」は「電動化」です。これは電気自動車も含みます。これはまさにテスラが切り開いた、一番得意な分野だと思います。
この「マスタープラン2」を本当に実現すれば、車の世界で起きている「CASE」のトップランナーになることができるだろうといわれています。これは、日本の自動車メーカーにとって脅威ですが、これによって車の世界も変わっていくと思います。
●乗ったら分かるテスラとこれまでの車の大きな違い
―― ちょうどテンミニッツTVで猪瀬直樹先生が関連の講義をされています。カーボンニュートラルについての講義なのですが、ご自身がテスラをお買いになっているのです。
桑原 なるほど。
―― そこで猪瀬先生は、今までの車をいわゆるガラパゴスケータイだとすると、(テスラは)スマホの時代になったぐらいの違いがあるとおっしゃっていました。
桑原 ええ。
―― さらに、ネットにつながっていろんな情報が共有されていくのが、普通の車の感覚とまったく違うとおっしゃっていました。まさに乗ってみると、そのような違いがよく分かるということなのですね。
桑原 そうですね。車の場合は、絶対に付けなければいけないボタンが国の法律によっていくつか決まっていますが、テスラはそれ以外を全てタッチパネルでやってしまおうということです。スティーブ・ジョブズがiPodをつくった時に「電源ボタンなんて要らない」と言いましたが、マスクもまさにその発想で、要らないボタンは要らないじゃないかと。必要なときに出てくればいいと言っています。
テスラの強みは、仮に何か車に不具合があっても、全てネットを通じてアップデートできる点です。例えばベンツが何かを変えようと思ったら1年かかるだろうけれど、テスラの車は朝起きたらもう変わっていると、マスクは言っています。車はそのくらいガラッと変わっていく。その先頭を走っているのだと思います。
―― そのあたりは本当に大きな変化ということなのですね。
桑原 はい。