●思い込みの壁を超えないと新しいモノは作れない
―― 続きまして、「恐れるな、自分で自分の限界を決めてはいけない」という項目です。
桑原 はい。
―― まず1つ目が、「どんなものにもためらってはいけません。想像力が限界を決めてしまいます」。
桑原 これは賢い人が多すぎるとダメだという話にもつながると思いますが、やはり世の中には、常識的に見てできないだろう、これ以上は無理だろうというものがあるわけです。
スポーツの世界でも、なかなか超えられない記録がよくありますが、それを1人が超えれば、あとから何人も超えていくということがあります。アスリートに言わせると、「超えられない壁なのだ」という思い込みを自分の中でつくってしまうと、絶対にそれを超えられないということです。電気自動車にしても同じで、電気自動車はこんなものだと誰かが決めてしまうと、その思い込みを超えられなくなってしまいます。
テスラが「ロードスター」を発売した時に、GMやトヨタなどが驚いたのは、電気自動車でこんなかっこいい車がつくれるのかということでした。「想像できることは実現できる」という言い方がありますが、逆に、想像できないことは実現できなくなってしまうとすると、自分の想像力をどこまで広げられるかが大事なのです。それがマスクの考え方だと思います。
―― 続きまして、「ずっと同じものの見方をしていては、いつまで経っても変わりませんよ」と。
桑原 これは特にマスクのモノづくりに非常に特徴的です。車とはこういうものだとか、ロケットとはこういうものでこういうつくり方をするのだという常識が業界にはたくさんあります。その常識に縛られてしまうと、いつまでもそれを超えていくことはできないと。
マスクは、ロケットの価格を100分の1にすると言っていますが、それを実現するためには、それができるかどうかをゼロベースで考える必要があるわけです。
そして、実際にやってみたら、できてしまう。パソコンに使っているような電池を使って車を走らせることなど誰も想像しなかったのですが、それはただ単に誰もやったことがなかっただけです。そして、実際にやってみたらできるではないかと。ものの見方を変えていくこと、そしてルールに縛られないことが非常に大事なのだと思います。
―― ゼロベースで見るということですね。
桑原 そうですね。
●恐怖心の根拠を疑い、失敗への恐れを乗り越える
―― 続きまして、「恐れは理にかなったものとして無視する。理にかなっていても、前に進むのが遅くなるから」。これはまた不思議な言葉ですね。
桑原 そうですね。当然、失敗に対する恐怖心は誰もがあると思いますし、おそらくその失敗が「なぜダメなのか」を教えてくれる人たちはたくさんいるわけです。会社の中でもそうですが、何か提案をしたときに、「それはできっこない」「前にやったけどダメだった」「業界では誰もやっていない」など、いろいろと理屈を言ってくる人はたくさんいます。それに対してマスクは、「それはあなたが自分でやったことなのですか」という問いかけができる。つまり、確かに過去の人は失敗したかもしれないが、今やったら違うかもしれないという考え方をするのです。
ですから、恐れは確かに理屈としては通っているかもしれないけれど、それは本当なのかと、それすらも疑う気持ちを持っているのです。マスクは、恐れをある程度無視すると言っていますが、無視するというより疑うということなのだと思います。
―― なるほど。
桑原 常識とか慣行とか、そういったものをちゃんと一つ一つ検証しながら進んでいき、そこにとどまってしまわないようにしようということだと思います。
●過去の成功を否定しなければイノベーションは起こせない
―― 続きまして、「ダサくて高い車もつくれるし、格好良くて高い車をつくることもできる。大企業は企業の歴史や文化に縛られ過ぎているのかもしれません」。
桑原 パソコンにしても、ケータイ電話にしてもそうですが、こういうものだという思い込みの延長線で考えていくと、それを超えるモノは絶対できない。その結果、どうしようもないようなパソコンやケータイ電話ができていたわけですが、そこにまったく違うものをつくるということを、例えばスティーブ・ジョブズは何度もやってみせました。
大企業は、過去に成功したから今があり、その過去を否定するのは、やはりとても怖くて難しいことです。なので、つい過去の延長線上でいろいろなものをつくってしまう。なぜGMやトヨタが「ロードスター」をつくれなかったかというと、やはり自分たちのこれまでやってきたレールの上でものを考えるからです。そのことをマスクは言っています。ダサ...