●『夢を語る』以上に『実行すること』
―― 続きまして、イーロン・マスクの言葉を見ていきたいと思います。
まずは、「求められるのは『夢を語る』以上に『実行すること』」だというところですね。
桑原 はい。
―― いくつか言葉がございますが、1つ目は「あなたが会社をつくるつもりなら、最初にやってみるべきことは、実際に動く試作品をつくることです」。
桑原 これは例えばトヨタなどでもよく言っていますが、アイデアがあったらモノをつくってみなさいと。モノづくりにおいては一番大事なことです。自分がすごいアイデアを持っているのに、それを誰も分かってくれない、みんなが協力してくれない、という思い、不満を持っているビジネスパーソンの方は多いかもしれませんが、マスクのやり方は、ロケットにしても車にしても、語るだけではありません。
マスクは非常にITに強い人なので、パソコン画面上で何でもつくれるし、何でも動かせると言っています。しかし、「それではダメだ。人を感動させるのは動く試作品なのだ」と。
確かにそうで、もしテスラが「ロードスター」というかっこいい車ではなく、ダサい電気自動車をつくったとしたら、おそらく電気自動車の時代は来ませんでしたし、誰も見向きもしなかったでしょう。ところが、あのハリウッドのスターたちが欲しいと言うようなすごい車をつくるから、トヨタの豊田章男社長をはじめ、誰もが感動して、「電気自動車はすごいね。売れるね」となるわけです。
そのように、マスクはアイデアがあったらすぐに実行するし、それを形にする才能が優れているわけです。そして、それがマスクにとっては夢を叶えるための一番の方法だと、若い学生たちにもよく言っていることです。
―― そうすると、スペースXのロケットも最初は3回失敗しましたが、失敗してもいいわけですね。実際にまずやってみてどうなるかが大事だと。
桑原 そうですね。宇宙飛行士の野口聡一さんが、スペースXという会社は、「人前で失敗ができる会社だ」と言っています。
―― なるほど。
桑原 普通だったら失敗は隠しますね。
―― はい。
桑原 普通は隠そうとするし、見えないようにしますが、スペースXは、堂々と公の場で実験をして、堂々と失敗すると。その代わり、その失敗で何が問題かをすぐ次には解決してくる。人前で失敗できる強さがスペースXにはあると 、野口さんは絶賛していました。
―― そこがまさに、実行することの一つの鍵でもあるわけですね。
桑原 そうですね。
―― 次の言葉です。「EVのアイデア自体はかなり古くからあったのに、なぜ誰もつくらなかったのか。それはアイデアを実行することが、思いつくより難しいからだ」。
桑原 EVのアイデアを最初に形にしようとしたのは、トーマス・エジソンなのです。
エジソンはもちろん電気の時代を切り開いた人ですから、電気自動車というものに非常に興味を持っていました。ただ、当時は鉛電池が非常に重く不格好なものだったので、思うように開発できませんでした。結局、かつてエジソンの下で働いていたヘンリー・フォードがガソリン自動車をつくって成功するわけです。だから、電気自動車のアイデアはその頃からずっとあったのですが、つくられていたのはせいぜいゴルフカート程度のものでした。あるいは、環境にいいという面から、自然保護区などで少し走るような車しかできませんでした。
電気自動車については、どうしても電池が重く、価格も高いことと、さらには100キロしか走らず電池が切れたらどうするのかといった課題がありました。その課題に関して、マスクの場合は、いろんなモノづくりの力があることで優れたものをつくることができました。そして、実際にアイデアは形にしなければダメだというのが、マスクの確固たる信念だと思います。
●なぜ賢い人間が多すぎるとイノベーションは生まれないのか
―― 続きまして、「インターネットとか財務とか法務に詳しい賢い人間が多すぎると思うんだ。そういうこともイノベーションがじゃんじゃん生まれてこない理由なんじゃないかな」。
桑原 マスク自身、インターネットについては、もう天才的な才能を持っています。
―― 最初は、それで大儲けしているわけですからね。
桑原 そうですね。ただ、マスクがやろうとしたことは、ロケットにしても電気自動車にしても、普通の常識で考えたら絶対に失敗する話です。
ロケットにしても、ものすごい大金持ちたちが何度も挑戦をしては、みんな失敗をしました。その歴史を知る人であれば、誰もが反対する。さらに必要な資金が国家レベルの事業ですから、財務に詳しい人も反対しますね。電気自動車も、法律の視点からいくとまず反対されます。このよ...