●ベンチャー企業が自動運転の分野で注目を浴びている理由
2020年の段階では、自動運転の開発から社会実装へ今まさに移行しつつあるという現状です。私も含めて、国内外でどのような実験が行われているのか、最初に紹介します。その後、技術の話に移っていきたいと思います。
「自動運転」と一言でいっても、さまざまな自動運転があります。私が個人的に思いを持っていた自動運転とは、自分で車を持つのではなく、呼ぶ、あるいは来て欲しいと思った時に来てくれるという、タクシーやバスに近い自動運転でした。これは高速道路を走るというよりは、過疎地や郊外など、移動に困っている地域で住民の足となり、人手不足を解決するような技術です。過疎地といいましたが、必ずしも一般道路を走るだけではないと思っています。過疎地や郊外に行くと、私有地も非常に大きく、その中での移動も時には困難となります。その時には、本当の完成車を使うというよりも、例えば小型のカートを使った敷地内のモビリティとなるでしょう。
また、屋内でも利用可能です。最近のコロナ禍の中で、非接触、3密を避けることが推奨される中で、配送ロボットなどが注目されていますが、そのような小さなロボットも同じ自動運転の技術を用いています。今後、屋内ではこのような小さな搬送ロボットも活躍していくと考えています。これを別々に開発していくと開発コストは急激に上昇していくので、いかにして共通のプラットフォーム、例えばソフトウェアや、センサーやコンピュータなどのハードウェアをいかにして共通化していくかということが、今後自動運転の技術を社会実装していく上で重要になってくると思います。
いくら良い技術であっても、高価であるが故になかなか手に入らないということでは、社会における実用化は難しいというのは、歴史を振り返っても当てはまります。いかにして共通化を通じて、コストを下げた上で、同時に品質も担保していくという開発が、今後注目されていくと思っています。
ベンチャー企業が今、自動運転の分野で注目を浴びているのは、テクノロジーの先端性という点もありますが、開発手法が新しいという点も重要です。いかにして品質の高いものを低コストで開発できるか、というノウハウもスタートアップは持っているのです。
●究極的には運転の無人化を目指している
自動運転の今後は無人化という問題に関わってきます。人手不足を解消したいので、自動車の中に人が不要だという環境をつくっていかなければいけないのですが、そのような環境では例えば免許を持った人はどこにいるのでしょうか。
日本には道路交通法があり、免許を持った人が車の運転の安全を担保する義務があります。日本では、道路交通法自体を改正するのは非常に難しいので、基準緩和が進められています。つまり、免許を持っている運転手は必ずしも車の中にいなくても良いというものです。ただし、遠隔地でも良いので、運転手はいなければならないというのが、現段階での日本の基準緩和の考え方となっています。したがって、遠隔地でも良いので運転手がいて、万が一のときにはその車の操作を行うことができるという状況でなければなりません。自動運転ですので、基本的な任務は監視やイレギュラーなことに対応することとなります。
遠隔地でこういったことを行うためには、通信が非常に大きな要素となってきます。特に5Gは帯域が広く遅延の小さい通信が可能です。人が乗っている自動運転であれば、通信技術はそこまで必要とされませんが、無人化を進めていくためには、この5Gが街中にいかに普及していくかという点も非常に重要となってきます。
こういった無人化の技術は、過疎地や郊外といった人手不足に悩んでいる地域に役立つと思っています。例えば山の中に一軒家があったとして、そこにものを運ぶ、あるいは迎えにいくという場合に、ただでさえ人手不足に悩まされている中で、一人のドライバーを手配するのは、今後の日本の状況を鑑みると、難しくなってくると考えられます。このような状況の中で、無人化の技術は生きると考えられています。
それから、観光地であり人が集まりやすいが、過疎地であるという地域があります。普段から人が集まるわけではないですが、ある特定の条件が揃うと人が集まりやすくなるといいう地域ですね。このような場所でも、無人化技術は役に立つと考えています。簡単にいえば、観光案内を無人の自動運転車がしてくれるというようなサービスですね。このような取り組みが、近年日本では始まってきています。
●物流の自動化は自動運転の最も重要な側面
そして、特に最近...