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自動運転はビジネスとして成立するか、タクシーで実証実験

「自動運転の民主化」が生み出す近未来の社会(5)ビジネスとして成立するために

加藤真平
東京大学大学院情報理工学系研究科 特任准教授/株式会社ティアフォー 創業者
情報・テキスト
自動運転技術を一社で実用化にまで持っていくのは負担が大きいため、TierIVはオープンソースの可能性に注目している。つまり、技術を公開し、さまざまな技術をそこに上乗せしていくことで、迅速な開発を可能にしようという考えだ。特にこれからは技術面の実証だけではなく、どのようなサービスをすれば採算が取れるのかというビジネス面の実証に力を入れていく必要がある。(全5話中第5話)
時間:18:06
収録日:2020/11/25
追加日:2021/04/29
タグ:
≪全文≫

●オープンソースによる開発の進展を目指す


 これまで技術に関して、そして国内外で行われている実験に関して、解説及び紹介してきました。今回は、それらを踏まえて、今後どのようなビジネスがあり得るのか、という点に関して、見ていこうと思います。

 特に今回はオープンソースに着目したいと思います。オープンソースとは、TierIVが掲げている民主化の非常に基本的な考え方ですが、自分たちが持っているソフトウェアのプログラムを一般に公開するものです。誰でもダウンロードして、改造しても良いというように、一般的に利用できる状態にしてしまうのです。自動運転のソフトウェアは非常に規模が大きいので、これを1から作ろうと思うと数年、下手すると10年かかってしまいます。この技術をオープンにすることで、これから自動運転のマーケットに参入してくる企業や組織は、ベースはオープンソースのものを用いて、その上に自分たちの製品やサービスを上乗せしていくことができるのです。これがわれわれの基本的なモデルです。

 この図を見ると分かりやすいと思いますが、自動運転と一言でいったときに、車両、通信、ソフト、センサーと関連する技術は多岐にわたります。これらの技術のすみ分けを行うことが、今後ビジネスを展開していく上で非常に重要になってきます。オープンソースの上には、通信、ソフトウェア、ハードウェアなど各ビジネスのセクションがあります。各々のセクションにおいて、同じオープンソースのものが用いられているという構図をつくることができれば、最初の一台を実用化するだけではなく、おそらく日本は世界に先駆けて自動運転というビジネスを普及させていくことができると思います。

 ここで、オープンソースの上に何が上乗せされるのか一つの例を紹介しようと思います。オープンソースとは、誰もが使えるフリーのソフト、アプリのようなものだと思ってください。これを用いて、各企業は自分たちの製品を売りたいと考えます。製品とはセンサーや車の部品、チップ、ソフトウェアの中でも自動運転とは直接関係のないナビやディスプレイなど、周辺のサードパーティの製品を含みます。これらを作る企業は、自分たちで自動運転システムをつくることはできないものの、その一部を提供することができます。オープンソースを用いてつくられる自動運転車では、全てこの製品を用いることができるということになれば、こうした企業も大きなマーケットに飛び込むことができます。

 このサードパーティ製の製品を使って、各車両に展開するというビジネスがあります。「エッジ」という言葉があります。これは、車両の中で使う製品を束ねて扱うものです。例えば、コンピュータにセンサーを接続し、そこにオープンソースのソフトウェアとサードパーティ製のソフトウェアをインストールし、チューニングした上で提供するなどが考えられます。あるいは、 AIやデータ分析の場合には学習や計算が必要となります。これを各社が別々に行うのではなく、クラウドという共通基盤を用いて、走っている車からデータを吸い上げて、それを用いてAIをつくる、あるいは分析を行うというプレーヤーが今後出現すると思います。

 このエッジとクラウドを束ねると、ようやく自動運転車両を構築することができます。従来は、車がインターネットに接続されていなかったので、エッジ側の技術のみで車をつくることができていました。しかし、これからの時代は車をインターネットに接続することができるので、クラウド、つまりインターネットと接続して初めて車と呼べるという時代がやってくると思います。


●自動運転車による新たなサービスはビジネスとして成立する必要がある


 ここまでは、インターネットという新しいキーワードが出てきましたが、これまでの自動車産業と比較的近い構造だと思います。今後少し変わっていくといわれている分野として、自動運転車両を用いて新たなサービスを提供する人々が出てくると考えられています。

 従来では、個人に売ることが最終的な目標でしたが、タクシーやバスが中心となってくるとすると、この自動運転車両を用いてさまざまなサービスを提供するプレーヤーが出現してきます。例えば、バスやタクシーに代表されるモビリティの分野や、あるいはエンターテイメント、それ以外にも全く予想されていなかった分野に用いられる可能性もあります。自動運転車両はある種時間と空間を提供するサービスなので、これらを用いたいサービスであれば、自動運転車両は非常に良いコンテンツとなると思います。

 こうした構図の中でどのようなビジネスが可能かということは、実はまだ誰も分からないのです。ですので、技術の実証だけではなく、サービス、つまりビジネスの実証も進めていかなければならないと考えています。
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