●社会規範とレピュテーション・リスクのイメージ
それではコンプライアンスの2回目についてお話していきます。
第1回でレピュテーション・リスクという言葉について説明しましたが、これを分かりやすく絵にしてみました。ご覧ください。
中央に赤いラインが引いてあります。そして円があって、上に「法令」、下に「法令違反」と書いてありますね。これがまさに法令遵守の世界です。法令、法律に違反すると罰金や行政命令、業務改善命令といった制裁が下されます。このようにして企業価値は毀損されます。
しかし、企業価値を損なうものはそれだけではありません。第1回でお話したレピュテーションはこの法令よりもさらに広い概念です。先ほどの円の周りにアメーバ状に広がっている部分を見てください。上に「社会規範」と書いてありますが、これはステークホルダーが企業に求める行動規範を指しています。これは法令には規定されていないけれども、違反する行為をすると下にあるようにレピュテーション・リスクという実質的な制裁が加えられます。株価の下落、顧客離れ、優秀な学生を採用できなくなる、といった実際上の不利益、企業価値の減損が生じることになります。
しかも、この社会規範は絵の通りに拡大していくものです。数年前と今とでは企業に求められるものがまったく違ってきています。
例えば、環境問題を考えてみましょう。10年前、20年前という長い単位で見れば、環境問題に対する企業の取り組み意識は「まあ、それはやったほうがいいかもしれないけれど」といった程度のもので、あまり重要視されていませんでした。ですが、今では環境に反する行為は重大なレピュテーション・リスクになってきています。環境問題に関する社会規範は年々広がってきており、それを後追いするようにして法令も整備されてきました。今では環境法などに違反すると、法令違反になります。
ですから、リスク管理を真剣に考えるならば、企業は日々拡大する社会規範をしっかりとフォローし、時代遅れにならないように細心の注意を払わなければなりません。これがまさにコンプライアンスの本質だと私は考えます。
●役員・経営幹部の「セクハラ」は一発退場になるのが現在の常識
そして今回は、コンプライアンスとの関連から、特にハラスメントについて考えていきたいと思います。
いわゆるセクハラや、パワハラ、最近ではマタハラなど、ハラスメントにはさまざまな種類があります。まずは「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」から始めていきましょう。
これは20年、30年ほど前から出てきた言葉ですが、その頃は例えば企業内で男性社員が女性社員のことを「女の子」と呼んで性的な話題を口にするといったようなことが想定され、それはセクハラで良くないなどと言われていました。当時はまだセクハラというものが社会規範の領域にとどまっていましたが、今ではもう立派な法令違反で一発退場です。法的な制裁も受けますし、改善命令も出ます。このように、以前は社会規範にとどまっていたセクハラも、すでに法令違反の世界に取り込まれるに至っています。
もちろん、全てのセクハラが法令違反となっているわけではありません。男女雇用機会均等法をはじめとした個別の法律でセクハラと認定され、法令違反の制裁を受けるのは、現在のところセクハラの中でも特に悪質なものに限られています。だからといって法令違反にならないセクハラが許されるのかといえば、もちろんそんなわけはありません。企業のリスク管理において、役員・経営幹部のセクハラは一発退場になるのが、現在では世の中の常識となっています。
このように、セクシュアルハラスメントは非常に法令違反的な色彩が強いものではありますが、同時にその枠内に入り切らないものであっても、レピュテーション・リスクによる実質的な強い制裁が企業側から課されるものになってきているということがいえるだろうと思います。
●恐ろしいのは無自覚に行われる「パワハラ」
続いて、今、発展途上でかなり法令違反に近づきつつあるのが「パワーハラスメント(パワハラ)」です。
かつての日本企業では、指導の名目で乱暴な言動がまかり通っていました。いまだに「昔、俺たちはそれで鍛えられたのだ!」といった「昭和のおじさん」レベルの意識の人もいますが、今ではレピュテーション・リスクの社会規範も変化してきており、すでにパワーハラスメントも法令の射程に入ってきています。
パワーハラスメントは、一般に上下関係に基づく有形無形の圧力(パワー)を用いた嫌がらせ等を意味します。これは「暴力を使う」「怒鳴る」「ものを投げる」といった明確...