●韓国の新型コロナ対応と新たなクラスター発生
アジアに目を転じて、まず韓国。これまでは(感染症対策の)優等生といわれていました。韓国の特徴は、大規模なテストと綿密な追跡で感染の鎮静化を図ってきた点です。韓国は、コロナウイルス・テスト・キットを迅速に開発して、生産ラインに乗せましたので、2月頃には世界で最大級のテストを行っています。
テスト方式としてドライブスルーを取り入れたのも、韓国の医師が最初です(さすがにアメリカは、すぐそれを活用しましたが、日本は遅れました)。感染確認と隔離が非常に大きな効果を表し、韓国は収束にかなり成功したわけです。
韓国には強力な司令塔があります。「疾病管理本部」という名前で常設されており、省庁級の力を持っています。韓国の感染症予防法に基づいて、緊急事態には政府の各部門の対応を要請できる法的権限を持っている。言い換えれば、政府に命令できる権限があるということです。
4月15日、韓国では総選挙がありました。開票結果は、文在寅率いる与党(「共に民主党」)が定数300の6割を占める180議席を獲得する大勝利でした。これは、与党のコロナウイルス政策が支持されたためと見られています。
そのように大成功したと見えた韓国のクラブで、5月にクラスター感染が判明しました。その大半がLGBTのコミュニティの人々だったため、プライバシー問題がなかなか大変でしたが、当局は2週間で4万6000件の検査を実行し、徹底したIT活用により、懸命に第二波阻止へと動いています。5月29日、首都圏での外出自粛が要請され、6月11日の時点でも続いていました。これだけの優等生でもやはりそういうことが起きるということです。
●シンガポールの俊敏な対応と偏在する第二波の事情
シンガポールも、世界の(感染症対策の)優等生といわれています。2020年1月2日という早い時点で、武漢での新型肺炎のクラスターについて、シンガポールの厚生省が報告を出しています。その翌日から、シンガポールのチャンギ空港は入国者への体温測定実施など、徹底的なチェックを始めます。シンガポール大学を含む多くの施設が政府の指定により感染者を受け入れるようになり、研究機関も猛烈に研究を始めました。世界で最初の感染追跡アプリ「Trace Together」を開発したことでも知られています。
ところが、その優等生とされていたシンガポールで、4月後半から新規感染者が急増します。移民労働者のなかに感染者が多発したのです。それまでシンガポールは都市閉鎖を行わず、感染経路の追跡と隔離で抑制する模範例でしたが、経路不明の感染者が急増したため、閉鎖措置へ方向転換することになりました。
第二波として起きたクラスターのほとんどが外国人労働者居住区でした。シンガポールには、インド、バングラディシュ、中国などから来ている約30万人の移民労働者が働いています。彼らのための民間宿舎は1部屋に20人という過密状態で、ソーシャルディスタンスは難しく、彼らのほとんどが「濃厚接触者」ということです。
移民労働者の感染は2月からあったようなのですが、政府は気づきませんでした。4月の後半には新規感染者が毎日3ケタで増え始め、恐ろしい数に達しました。1日800人の感染ですから、2週間で5倍になる勘定です。
外国人労働者を支援する非政府組織の職員で欧米出身のキャサリン・ジェームズ氏が新聞に寄稿しているところによると、移民労働者たちは相当ひどい生活を強いられているが、シンガポール人は外国人労働者に対する差別は正当だと信じている節があります。「母国よりも高い給料を払っている以上、文句はあるまい」というのです。ところが、多くの労働者たちはここに来るまでの間に業者による法外な中間搾取で多額の借金を背負っています。シンガポール政府もようやくこれに気がつき、大規模な寮をつくるなどの動きが始まった、ということです。
●台湾の徹底制御を見習わせない中国の圧力
次は台湾についてです。今回の危機にあたって、台湾では「衛生福利部」という疾病の管制をする機関を中心に、省庁横断で設置された「中央感染症指揮センター」に臨時政府のような強大な権限を与えています。その感染対策に従わない市民に罰を科すことはまったくいとわず、強力に推進しています。
4月18日、台湾が日本に置いている事務所(台北駐日経済文化代表処)の代表である謝長廷氏が、「2019年の12月末に武漢で新たな肺炎が出たとの情報を、台湾からWHOと中国当局にメールで送った。台湾では最初から人から人への感染の可能性を排除せず、武漢から台湾への航空便の立ち入り検査を実施した」と報告しています。
しかし、台湾はWHO大会に招かれませんでした。台湾の経験は素晴らしいものなので、本当はWHOに招いて世界が共有すべきだったと思うの...