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コロナを逆手に取ってアメリカを悪者にするイランの強かさ

イスラム世界におけるコロナ問題(3)アメリカ批判のイラン外交と政府の責任

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
イランのハーメニー最高指導者は、感染拡大はアメリカによる医療テロが原因だと発言している。確かに、アメリカの数々の制裁がイランの外貨獲得を困難にし、医療崩壊を招いたことは否めない。しかし、感染拡大の根本的な原因はイラン政府の対応の遅れにあり、またサービス業従事者が多い産業構造がその背景にもなっているのだ。イラン政府はアメリカを強く批判し国際社会での同情を買おうとする一方、準同盟関係にある中国に対しては何ら責任を問わない。この点にイランの今後の新たな戦略意図があるのではないか。(全4話中第3話)
時間:13:06
収録日:2020/08/04
追加日:2020/09/26
カテゴリー:
≪全文≫

●ハーメニー最高指導者のアメリカ批判


 皆さん、こんにちは。

 中東でも最大の国家、地域大国であり、かつ日本とは歴史的にもつながりが深いイランにおけるコロナの拡大についてお話ししてきました。

 前回、このコロナの拡大、あるいはその原因についての一端をお話ししましたが、その際いかにもイランらしいと言いますか、イラン・イスラム共和国の政治体制にふさわしい理由として、というところで前回は終わりました。

 ハーメニー最高指導者は、「コロナウイルスというのは敵によってばらまかれた。敵による陰謀だ」とこういうことを言っているわけなのです。この「敵」とは誰かというと、これはアメリカとイスラエルであって、「アメリカとイスラエルによる生物兵器攻撃の可能性がある」と最初このように話していてなかなかこのラインを越えられず、このイスラエル、アメリカ批判というものをしきりにしていたのです。


●遅かったイラン政府のコロナウイルス対策


 感染が最初に確認されて以降も、ちょうど国会議員選挙と重なったのですが、この国会議員選挙への投票というものを強く呼びかけた。これは逆なんですね。誰がどう考えても常識的にそういう選挙に関しては日延べするとか、あるいはとにかく皆が投票所に行かないような工夫をするとか、何かあるはずだったのですが、こういう初期段階において危機感を欠いていた証拠として、私はこの国会議員選挙などへの投票の強い呼びかけというのもあるのではないかと思うのです。

 つまり、3月下旬以降になって初めてイランの政府は商業施設の閉鎖、あるいは日本では普通「社会的距離」と言いますけれども、「ソーシャルディスタンス」ということを言い出した。ソーシャルディスタンス、これを「社交距離」という言い方もありまして、この社交距離というのは、私は面白い表現だと思いますが、人と人が交わるという意味でいうと、非常に抽象的かつ一般的な「社会的」というよりもこの「社交距離」というほうが、面白いという気もします。いずれにしても、このソーシャルディスタンスにおける初めてのキャンペーンをして、今度は逆に非常に厳しい対応を取るようになったわけです。


●サービス業従事者が多いのも感染拡大の背景


 イランにおいてもう1つあまり知られていないのは、イランというと石油産業、石油の掘削、あるいは石油の製品による産業部...
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