●ハーメニー最高指導者のアメリカ批判
皆さん、こんにちは。
中東でも最大の国家、地域大国であり、かつ日本とは歴史的にもつながりが深いイランにおけるコロナの拡大についてお話ししてきました。
前回、このコロナの拡大、あるいはその原因についての一端をお話ししましたが、その際いかにもイランらしいと言いますか、イラン・イスラム共和国の政治体制にふさわしい理由として、というところで前回は終わりました。
ハーメニー最高指導者は、「コロナウイルスというのは敵によってばらまかれた。敵による陰謀だ」とこういうことを言っているわけなのです。この「敵」とは誰かというと、これはアメリカとイスラエルであって、「アメリカとイスラエルによる生物兵器攻撃の可能性がある」と最初このように話していてなかなかこのラインを越えられず、このイスラエル、アメリカ批判というものをしきりにしていたのです。
●遅かったイラン政府のコロナウイルス対策
感染が最初に確認されて以降も、ちょうど国会議員選挙と重なったのですが、この国会議員選挙への投票というものを強く呼びかけた。これは逆なんですね。誰がどう考えても常識的にそういう選挙に関しては日延べするとか、あるいはとにかく皆が投票所に行かないような工夫をするとか、何かあるはずだったのですが、こういう初期段階において危機感を欠いていた証拠として、私はこの国会議員選挙などへの投票の強い呼びかけというのもあるのではないかと思うのです。
つまり、3月下旬以降になって初めてイランの政府は商業施設の閉鎖、あるいは日本では普通「社会的距離」と言いますけれども、「ソーシャルディスタンス」ということを言い出した。ソーシャルディスタンス、これを「社交距離」という言い方もありまして、この社交距離というのは、私は面白い表現だと思いますが、人と人が交わるという意味でいうと、非常に抽象的かつ一般的な「社会的」というよりもこの「社交距離」というほうが、面白いという気もします。いずれにしても、このソーシャルディスタンスにおける初めてのキャンペーンをして、今度は逆に非常に厳しい対応を取るようになったわけです。
●サービス業従事者が多いのも感染拡大の背景
イランにおいてもう1つあまり知られていないのは、イランというと石油産業、石油の掘削、あるいは石油の製品による産業部門を思い浮かべがちですが、イランの隠れた産業というのは実はサービス業なのです。特にこのサービス業に従事する人々が、イラン全体のおよそ50パーセント、半分ほどを占めるのです。
このサービス業では、バーザール(市場)の小売店主、それから飲食店の経営者、また運転手などの人たちが主な担い手と考えられます。このような人々の仕事というのは、ホワイトカラー、例えば離れていても仕事ができるような、最近リモートで仕事をするというようなことが日本では普通になっていますが、そういう一種のホワイトカラーや技術者たちと違って、外出せざるを得ない仕事なのですね。もしくは人を呼んでなんぼと申しますか、人を呼んで初めて商売が成り立つ仕事、職業なのです。あるいは自分が出かけていって人々に売り込みをする、勧誘する。これがサービス業になります。
したがって、こうしたイランの特徴的な産業構造を担っている人たちが感染拡大の背景になったのではないか、と指摘するイラン専門家たちもいます。
●アメリカの数々の制裁がイランの医療崩壊につながった
確かに以前、私は、大きなそして長いレンジでの因果関係ではそう言えなくもないと言いましたけれども、アメリカの制裁によって医療は保健資材、機材が不足しているということで、これが医療崩壊につながった1つの要因であることはいえると思います。
アメリカは2018年5月にイランとの核合意、すなわちJCPOA(JOINT COMPREHENSIVE PLAN OF ACTION、共同包括行動計画)からの離脱をトランプ大統領は一方的に宣言し、それ以来イランに対して、従来認めてきた原油の禁輸免除措置(イランの原油を原則的に輸入してはならないが、いくつかの条件によってその一部は免除する、という措置で、JCPOAの協定内容の1つ)を完全撤廃した結果、イランの原油取引が遮断されてしまいました。そこでイランは外貨を獲得していく、つまり外貨の獲得によって外国商品を買うといった道が断たれてしまいました。さらに国際送金システム、いわゆるSWIFTと訳される国際送金システムからも締め出された結果、諸外国がイランと取引することは大変難しい状態になったのはご案内の通りです。
その結果として、新型コロウイルスの感染拡大によって医療崩壊が生じた、という面はあるということです。マスク、検査キット、ボンベ、防護服、手袋、それから人工呼吸器、こうしたもの...