●コロナ禍におけるハッジと犠牲祭
皆さん、こんにちは。
今日はコロナと中東、あるいはコロナとイスラム世界といった観点から、現代世界を脅かしているコロナ19(COVID-19)についてお話ししてみたいと思います。
コロナは中東はじめイスラム諸国にも大変深刻な危機を引き起こしています。ただ、興味深いのは、国の性格あるいは国の状況、国情や政体の違う国で異なる反応が見られるということであります。イスラム諸国は今年に関していうと、2020年7月28日の夜から30日にかけて、メッカ大巡礼・ハッジが行われました。続いて7月30日から8月3日、これは西暦でありますが、西暦の8月3日に犠牲祭を迎えるはずであり、また迎えた所がほとんどでした。
犠牲祭、これはアラビア語で「イード・アル=アドハー」といいますが、これはもともとイブラヒム、すなわちアブラハムが息子のイスマイール(イシュマエル)を神にささげようとしたことから、そうした子どもを殺害するのにしのびないと、代わりに羊を犠牲としてささげるという、そうしたことにちなんだ行事です。これは、ちょうど断食月が終わった後の祝祭、「イード・アル=フィトル」といいますが、このイードすなわち、イスラム歴12月10日から14日にかけて行われる断食月終わりの祝祭と並ぶ最大の行事なのです。
●ハッジ、犠牲祭の規模縮小でサウジのインバウンド消費に影響
例年であれば200万から300万の巡礼者がサウジアラビアにある聖地メッカを訪問するわけですが、今期のハッジはこのコロナ19(COVID-19)の感染拡大を受け、巡礼者がサウジ国内在住の数千人に限られることになりました。その内訳はサウジアラビア人30パーセント、外国人70パーセントといわれています。この犠牲祭に伴って多くの羊がほふられます。そうした羊をほふる盛大な行事や集団による礼拝、こうした規模が縮小されたということは言うまでもありません。
サウジにおいてハッジと犠牲祭は、本来であれば最近の日本でも使われる言葉でありますが、大規模な「インバウンド」消費の機会ともなるはずでした。ハッジに関しては2019年のハッジの人数は248万9406人、海外からの訪問者は185万5027人といわれています。日本人なら分かる比喩を使っている専門家がおり、私も「なるほどな」と思ったのですが、このハッジのおよそ249万人という2019年の数は、大体正月の明治神宮等の大きな神社に詣でる人々、この三が日の参拝者の数に匹敵する、といえばその大きさがお分かりになるかと思います。
また、私が驚いたのは、青森のねぶた祭り、あるいはねぷたまつりの規模がそれほどに大きいということですが、この青森の観光客を集めるまさにインバウンド消費のねぶた・ねぷたの規模に相当するということですから、これらが数において非常に減少したということも、驚きなのであります。
●経済的影響はアフリカ諸国にも
犠牲祭はおよそ4連休になります。4連休になるために人々が移動しますし、買い物を行います。この消費活動が非常に低迷したということ、あるいは消滅したということですから、2020年のハッジと犠牲祭に関する規制は、特にサウジアラビアにおいて経済的に大きな打撃となり、否定的な影響を及ぼしたに違いありません。
分かりやすくいうと、犠牲祭では羊をほふり、この羊肉を近所の人々に提供する、分かち合うという、こういう関連がイスラム諸国のどこでもあります。サウジアラビアは非常に豊かな国ですから、この大量の羊を気前よく、これまではスーダンをはじめとするアフリカ諸国から輸入してきたわけです。したがって石油の採れないスーダンや他のイスラム系のアフリカ諸国にとっては、こうした祝祭に伴う需要と供給は大変大きな収入源だったわけですが、それらが抑制されたということで、羊肉の需要低下という面でこれはアフリカ諸国の経済をも直撃することになった、といって差し支えないと思います。
●イスラム諸国はサウジ政府の対応を強く批判はせず
しかしながらハッジと犠牲祭に規制を課したということで、一部の過激派などはサウジアラビアを大変強く批判していますが、イスラム諸国の一般の間でサウジをこの理由をもって攻撃するという風潮は、あまりありません。COVID-19、つまり今回のコロナ禍は世界共通の課題であり、感染拡大の現状を顧みれば、例年通りのハッジや犠牲祭の実施はあまり現実的とはいえないからであります。
むしろハッジや犠牲祭によって感染が拡大し、感染拡大に拍車がかかれば、長期的にいえばサウジアラビア政府、王室の失策、失政として後世に語り継げられる危険性もあったからで、今のところサウジアラビアの今回、2020年7月から8月に続いた巡礼の祝祭とその後の犠牲祭以降の対応については、海外、イスラム世界から厳しい批判を受けているというのは...