テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

タリバンの勧善懲悪省が象徴的、強まるアフガンの恐怖政治

不安定化したアフガン、ウイグル、中国(3)タリバン政権の思想的特徴

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
国土の多くを山岳が占め、多民族によって構成されるアフガニスタンにおいて、多くの人々はどのような暮らしを送っているのか。また、タリバン政権はなぜこれほどまで批判されるのか。その政治的特徴について解説する。(全4話中第3話)
時間:09:55
収録日:2021/11/12
追加日:2022/01/02
カテゴリー:
≪全文≫

●激しい紛争のイメージとは異なるアフガンの平和な農村地域


 皆さん、こんにちは。

 アフガニスタンについて、私たちが意外と知らないことはたくさんあります。特に意外なのは、アフガニスタンは農村、村落が1万8000ほどあると言われており、それが人口の約8割を占めていることです。

 この1万8000以上の村落は、実際に歴史的事実として、誰にも支配されたことがありません。これは本当にありそうでなさそうな話ですが、現実にあるのです。つまり、他から孤立していて、誰も入ってこないし、誰も支配しないので、ここでは平和が維持されているということです。逆にいうと、税金を徴収して、彼らに対して何かをきちっと利益として保証するという権力も存在しなかったということです。

 これは大変驚くべきことです。過去20年間をみると、実はタリバンが良いと言っているのは、都市住民でも1割強程度です。後のおよそ9割弱は支持しない、反対する、あるいはどちらでも良いということです。こういうことに、どちらでも良いという答えがあるのは不思議なことですが、そういう答えが返ってきます。

 つまり、アフガンの人たちは誰もタリバンの復活に熱狂的にはなっていません。また、一度も支配されたことがない農村があることは、タリバンに支配されたことのない国民がいるということでもあります。こうした人たちや国があることを考えると、その中からタリバンに対峙しようとする力は出てきづらいように思います。


●過酷な統治こそが良質な統治というタリバンの政治思想


 そのタリバンは、厳密なイスラム主義に基づいています。男女を非常に差別する、非民主的な組織団体です。これに対して、国際社会がいくら「けしからん」と批判したところで、基本的にアフガニスタン国内の独特の状況を考えれば、国際世論や他の社会の常識とは離れたところがあるのは仕方ありません。

 後で触れますが、確かにタリバンの政治は過酷な政治といえます。しかし、過酷な統治こそが、実は良質な統治だという思い込みや考え方は、歴史上結構ありました。それはアフガニスタンに近い例に、隣国イランの古代の帝国であった、ササン朝ペルシャの最初にブズルジュムヒルという人がいました。ブズルジュムヒルは人々の生きる糧、あるいは楽しみを奪うことが統治の実につながると信じた人です。また、人民を厳しく扱うべきというので、「王者たる者は(気性の荒い)ラクダよりも強く(人民を)憎悪すべきだ」と述べたこともあります。

 一般の人民たちは、労働で疲れた体、あるいはさまざまな人との付き合いや、社会での身過ぎ世過ぎで疲れた心を癒す糧として、古代から現代まで、娯楽やレクリエーション、あるいは家族の団欒に、高揚を求めてきました。したがって、それを禁止することは、人々の楽しみを奪うことになりますが、タリバンは実際にこういうことをやっています。それがタリバンの厳しさというものです。

 タリバンの今の内務大臣はシラジュディン・ハッカニという人物です。そして、タリバン政権には、「勧善懲悪省」という省があります。すごい名称ですが、やっていることはまさにその名の通りです。イスラム的にみて良いと思うことを徹底して進め、逆にイスラム的にみて、間違ったことに対しては、懲らしめ、懲罰を与えます。したがって、「勧善懲悪」という訳がぴったりくるというので、日本の専門家たちはそれを「勧善懲悪省」と呼びます。

 サウジアラビアにも似たようなものがあります。勧善懲悪警察は、お祈りの時間になると、鞭でピシッと打って、「ほら、お祈りに行け」とやるのが仕事です。これについて、「そうやっているあなたたちはいつお祈りするの?」と、私は昔から不思議に思っていました。


●タリバン政権下では当然、民主主義は認められていない


 それは置いといて、タリバン政権で禁止されていることの例を挙げると、もちろんイスラム的なこととして、お酒を飲んだり、豚肉を食べたりするのはダメです。これらは当然のことですが、それに加えて、結婚式の歌舞音曲を楽しむことが禁止されました。例えば葬儀や葬式、葬礼であれば別ですが、結婚式に歌や舞は付き物です。これが禁止されるのは、世界的に見ても少しおかしなことです。

 それから、ホテルやレストラン、あるいは車で音楽を流すのは禁止です。日本だと、うるさいぐらいの音で音楽を流したりします。ゴルフの練習場でも音楽を流しているところがあって、私はロックが流れているのを驚いたことがあります。

 カーラジオやカーステレオを使って街中で音楽を流している若者たちの車がありますが、そういうことは罷り成らぬ(まかりならぬ)というのです。

 また、写真の掲示も禁止です。家族の写真だけではなく、スターの写真もダメです。理屈的に、そうい...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。