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コロナ禍のイランに「イスラム革命の輸出」をする余裕はない

イスラム世界におけるコロナ問題(4)イランの取るべき道

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
コロナ禍にあるイラン政府がなすべき優先順位の第一は、経済対策とコロナ対策の両立である。シリアやイエメン、あるいはレバノンにおいて革命防衛隊が展開しているようなイランによる「イスラム革命の輸出」に大きなエネルギーと財政支出をする余裕はない。(全4話中第4話)
時間:05:48
収録日:2020/08/04
追加日:2020/10/03
カテゴリー:
≪全文≫

●イランが優先すべきは国民の健康指針の遵守と社会経済活動の両立


 前回までイランについてコロナ、COVID-19の影響についてお話ししてきました。前回少しお話しが足りなかったことが1つあるのですが、ハッサン・ローハニ大統領自身は今、イランのこの感染の現状を「第三段階にある」と明言しているということです。ステップアップしているということなのですね。

 そのように認識して、国民における健康指針の遵守と社会経済活動の両立ということをローハニ大統領は目指すと語っているのは、大変結構なことですし、そうあらねばならないと思いますが、こういうことには大きな条件というものが入ると思います。

 それはもはや、シリアやイエメン、あるいはレバノン等々において革命防衛隊が展開しているようなイランの「イスラム革命の輸出」に大きなエネルギーをかけ、財政支出をするような余裕はないということです。こうしたことを止めない限り、イランにおけるコロナの終焉と経済成長の両立を担保していくような財源、あるいは人的資源というものは、どこにも見当たらない。こういうことについて、もう少しイラン・イスラム共和国は戦略の修正が必要なのではないかと私は思うのであります。


●求められるのは「イスラム革命」の停止と民生、復興への尽力


 2020年5月2日まで1日の感染者数は、イランは802名まで減少しましたが、現実に経済活動を再開したり、モスクへの礼拝を解禁したりしたところ、5月15日にはまたたく間に2102名に増えたということ。これ以降、連日2000名以上の新規感染者を出しているというのが現状です。日別の死者数を見ても5月16日には35人まで減少したのに、6月14日になると107名に達し、それ以来連日100名以上の死者を出しているという現状があります。

 私たち、特に日本人はイランという国との関わりが非常に深いだけに、そしてイランの文明、文化、歴史を深く敬愛する日本人も多いだけに、この私たちから見るとイランの苦境というのはまことに残念です。しかし、人道的見地からイランというものをきちんと理解し、そこに同情するという必要性と感染拡大を招いたイラン政府の責任、それ以上にイスラム革命の輸出という、いまだに古典的なイランのイスラム革命の戦略を引きずっている。これらの間に、当然バランスの取れた解決が求められなければならないのは、言うまでもありません。

 この点、私たちとしてはイランに対して大きく期待し、中東におけるイスラム革命の停止、そしてイランの兵力の撤退、それによって得られた余剰金をイランの民生と復興にあてがっていくということ。これが私の切なる希望でもあります。

 すなわち、イランにとっての最大の優先順序をもう1度申しますと、経済対策とCOVID-19、コロナ対策を両立させることであります。このままでいくと、コロナ対策が十分に行われない可能性があります。つまり、アメリカからの制裁によってただでさえ苦しい財政が、国境封鎖に伴う石油製品だけではなく非石油製品の取引さえできない状態になる。医療の不備、あるいは観光客の減少、こうしたことによって歳入が減少してくると、さらにイランの事情は悪化する懸念もあります。

 しかし、こうした懸念というのは果たしてイランにとってだけでしょうか。基本的に私たち、もしくは世界はしなくてもいいことに対して巨額の投資をし、するべきところになすべき投資、あるいは国民に対するケアを怠ってはいないだろうか。こうしたことを他山の石として考えることも大事ではないかと思います。

 イランにおける大変悲劇的な現在のコロナの猖獗(しょうけつ)、コロナの感染拡大の現状を見るにつけて、私にはそのように思えてならないのです。

 今日はこれで失礼いたします。
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