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古代ローマの歴史家が指摘したイランの王の「傲慢と臆病」

ペゼシュキアン大統領とイラン・イスラエル(2)「傲慢と臆病」が生む戦略

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
核合意破棄以降のイランの国民生活は苦しく、欧米による制裁を解除するためには、多くの犠牲を払う必要がある。イランの最高指導者が、この苦境脱出のためにどうするかを知るには、その思考法を知らねばならない。一つには古代ローマの歴史家トログスが「傲慢と臆病」と書いた王の知恵による戦略である。(全4話中第2話)
時間:09:57
収録日:2024/08/07
追加日:2024/09/27
カテゴリー:
≪全文≫

●イラン人の生活とイラン政治の苦境


 皆さん、こんにちは。

 今回、新たに選ばれたイランの大統領ペゼシュキアン氏は、イランの国民生活の改善・改良、ひいてはイラン核合意の復活などを通したアメリカあるいはEU諸国との通商貿易関係の復活などを国民に期待されていました。そのことが選挙の勝利の要因の一つだったということについて、前回、お話しいたしました。

 イラン人の生活は大変苦しいものがあります。イランの通貨はリアルといいますが、リアルの価値は今年(2024年)の7月初めには、2015年頃の約19分の1まで下落しています。2015年は、前回お話ししたイランと西側が核合意として、ウイーン最終合意を結んだ年です。イラン通貨の貨幣価値は国際的に大変下がっているということです。

 これをなんとかして安定させ、年平均40パーセント前後まで跳ね上がった物価の上昇率も下げることが(イランでは)急務になっています。リアルを安定させ、年平均40パーセントという大変な高率にまで上がった物価上昇率を下げていく。このことが、新大統領に国民が期待した大きな政治課題ではないかと思われるのです。

 そのためには何が必要かというと、申すまでもなくイランの主要産業である石油の輸出を再開することによって、貿易を正常化し、外貨を獲得することが欠かせないわけです。しかし、それを実現するためには、国会で多数派を占めている保守強硬派(が問題になります)。

 今回の選挙により、大統領と国会のマジョリティとの間にねじれが生じました。国会の多数としては相変わらず保守強硬派が残っていて、しばしばその後ろ盾になるのがハメネイ最高指導者ということになります。この両者を説得したり、この両者から支持ないしアンタント(黙認)を取り付けたりしていくのは、言葉で考えるほど簡単ではないというのが、イラン政治の難しいところです。

 しかし、ハメネイ師からするならば、イラン・イスラム革命の信奉者であるレバノンのイスラム教シーア派組織のヒズボラ、あるいはイエメンの反政府勢力のホーシー派はもとより、スンナ派であるパレスチナ自治区ガザのハマス、さらにシリアの民兵組織といった人々までを犠牲にする。

 彼らに犠牲を肩代わりさせるような露骨な形で、抵抗戦線を踏み台にして、イランが欧米に譲歩する。そして制裁解除を図る。そういうことは、政治的な選択としては...
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