●連立協議を断念したメルケル氏が選べる「三つの道」とは
今日はドイツ政治の話をしますが、サブタイトルとして「連立協議はなぜ難航するのか」と付けました。
2017年9月の連邦議会選挙の結果、一応の勝利を収めたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、緑の党、自由民主党(FDP)と連立協議を続けてきましたが、2カ月ほどたったところで断念を発表しました。残された道として、社会民主党(SPD)との連立、あるいはそのための協議をどれぐらい進めるかが課題になります。
アンゲラ・メルケル氏の前には、三つの選択肢が現れています。一つ目は「少数与党」のまま行くことです。しかし、少数与党は議会運営が非常に難しくなるので、避けたいところです。
二つ目は「再選挙」で、これはやはりCDU・CSUもSPDもやりたくない道です。なぜならば、「ドイツのための選択肢(AfD)」が票をもっと伸ばしてしまうのではないかという危機感があるからです。
残る一つは「SPDとの大連立協議」ですが、過去の経験からいうとSPDは連立してもそれほど有利にはなりません。ですので、この選挙でも敗北を認め、連立には加わらないと宣言していました。それでも今後、連立協議は続き、結論が出るのは早くとも2018年の2月を過ぎるのではないかと予想されています。
●ドイツの連立協議が難しくなる理由は、選挙制度
2017年10月配信のレクチャー(「2017年9月ドイツ連邦議会選挙の総括」)で、私は連立協議は難しいということを申し上げました。
ドイツは真面目に連立協議を行う国ですから、選挙の後、即座に政権の姿が見えることは、過去にありませんでした。「真面目に連立協議を行う」とはどういうことかというと、時に何百ページにわたる連立協議の協定書を作ることを指しています。これは、ドイツ政治あるいはヨーロッパ大陸の政治の一つの特徴といえるかもしれません。
なぜ、そうなっているのかということに関して、大きな点を申し上げます。それは、ドイツの選挙制度が小選挙区比例代表併用制と呼ばれているものの、基本的には比例代表制であるという点です。日本の場合、併立制と呼んでいますが、基本的には小選挙区を中心とする制度です。
比例代表制と小選挙区制は、教科書的にはしばしば「比例代表は民意の反映、小選挙区は民意の集約」といわれますが、私はこれにはあまり賛成しません。そういう側面ももちろんありますが、比例代表制はむしろ意見分布、つまりどういう投票をしたのかという分布の把握が非常にしやすい制度だからです。
●「なかなか政府ができない」比例代表制の欠陥
しかし、選挙にはもう一つの側面として、民意の集約だけではなく、「民意の集約にもとづいて政府をつくる」という仕事があります。選挙で政府ができる側面は非常に強く、小選挙区を取るのは、そちら側を指します。
比例代表制は基本的に過半数の議席を取るのが非常に難しい制度です。よって、選挙で決着しない、選挙で政府ができない側面が出てきます。得票を議席に転換する面では優れているものの、政府ができません。そこで、連立協議が通常1カ月、あるいはもっと長くかかるわけです。
日本の比例代表制の論者は、それが得票率と議席率の関係において優れた制度であるところだけに注目していますが、日本の場合には、政党が名簿を作れないという大きな欠陥があります。また、過去にはヨーロッパ大陸の政治(コンセンサス型)の方がウェストミンスター型のイギリスの政治よりいいといわれてきましたが、それも連立協議の側面をあまり注目してこなかったからです。
日本では、連立協議は、あっという間に紙一枚でできてしまいます。希望の党と民進党の場合のように、紙すらないことさえあるのです。
●複雑すぎる政治・経済状況とコンセンサス型政治
テンミニッツTVでは、ヨーロッパ政治がかなり厳しい状況にぶつかっていることを何度も申し上げてきましたが、ベルギーが連立協議に541日(540日と計算する人もいます)かかってやっと政権ができました。オランダの場合も、連立協議に7カ月(225日)かかり、過去最長といわれる4党の連立政権がやっとできました。そしてドイツが今、連立協議中です。
なぜ、こんなに連立協議が長引くのか。今のヨーロッパは大変複雑な政治状況、経済状況で、かつてのように人種・言語・宗教などだけでは決まらないからです。格差がある、難民がいる、あるいは環境問題がある、ということで非常に難しくなっているのです。
ドイツの場合、難民問題で緑の党がシリアからの難民の家族の受け入れを主張しましたが、キリスト教民主・社会同盟や自由民主党は、それに反対しました。地球温暖化対策では、緑の党が石炭火力発電の廃止を主張しましたが、自由民主党などが経済に影響を与え...