ドイツ政治の現在~連立協議はなぜ難航するのか~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ドイツの連立協議がうまくいかない理由
ドイツ政治の現在~連立協議はなぜ難航するのか~
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
ドイツでは、2017年9月の連邦議会選挙後数カ月たってもメルケル政権の形は明らかになっていない。キリスト教民主・社会同盟が勝利を収めたものの、他党との連立協議が難航・頓挫しているからだ。その理由はどこにあるのか。政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏に解説いただく。
時間:9分12秒
収録日:2017年12月7日
追加日:2018年1月17日
カテゴリー:
≪全文≫

●連立協議を断念したメルケル氏が選べる「三つの道」とは


 今日はドイツ政治の話をしますが、サブタイトルとして「連立協議はなぜ難航するのか」と付けました。

 2017年9月の連邦議会選挙の結果、一応の勝利を収めたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、緑の党、自由民主党(FDP)と連立協議を続けてきましたが、2カ月ほどたったところで断念を発表しました。残された道として、社会民主党(SPD)との連立、あるいはそのための協議をどれぐらい進めるかが課題になります。

 アンゲラ・メルケル氏の前には、三つの選択肢が現れています。一つ目は「少数与党」のまま行くことです。しかし、少数与党は議会運営が非常に難しくなるので、避けたいところです。

 二つ目は「再選挙」で、これはやはりCDU・CSUもSPDもやりたくない道です。なぜならば、「ドイツのための選択肢(AfD)」が票をもっと伸ばしてしまうのではないかという危機感があるからです。

 残る一つは「SPDとの大連立協議」ですが、過去の経験からいうとSPDは連立してもそれほど有利にはなりません。ですので、この選挙でも敗北を認め、連立には加わらないと宣言していました。それでも今後、連立協議は続き、結論が出るのは早くとも2018年の2月を過ぎるのではないかと予想されています。


●ドイツの連立協議が難しくなる理由は、選挙制度


 2017年10月配信のレクチャー(「2017年9月ドイツ連邦議会選挙の総括」)で、私は連立協議は難しいということを申し上げました。

 ドイツは真面目に連立協議を行う国ですから、選挙の後、即座に政権の姿が見えることは、過去にありませんでした。「真面目に連立協議を行う」とはどういうことかというと、時に何百ページにわたる連立協議の協定書を作ることを指しています。これは、ドイツ政治あるいはヨーロッパ大陸の政治の一つの特徴といえるかもしれません。

 なぜ、そうなっているのかということに関して、大きな点を申し上げます。それは、ドイツの選挙制度が小選挙区比例代表併用制と呼ばれているものの、基本的には比例代表制であるという点です。日本の場合、併立制と呼んでいますが、基本的には小選挙区を中心とする制度です。

 比例代表制と小選挙区制は、教科書的にはしばしば「比例代表は民意の反映、小選挙区は民意の集約」といわれますが、私はこれにはあまり賛成しません。そ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
為替レートから考える日本の競争力・購買力(1)為替レートと物の値段で見る円の価値
ビッグマック指数から考える実質為替レートと購買力平価
養田功一郎

人気の講義ランキングTOP10
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(5)『秘蔵宝鑰』が示す非二元論的世界
雄大で雄渾な生命の全体像…その中で点滅する個々の生命
鎌田東二
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子