≪全文≫
Ⅴ. 関税で誰が得をするのか
・トランプ氏は世界の国々が互いに関税をかけあえば、あたかも相互に得をすることができるような議論をしていますが、通常の理解では、トランプ関税を徹底すると、ほとんどの国が損をするでしょう。
・なぜなら、輸入する商品に関税がかけられると輸入国の消費者はより高い商品を買わされるので消費を減らすでしょう。輸出国から見れば需要が減少するので、その分、生産を減らします。したがって双方で消費と生産が減り、経済は収縮せざるをえません。結局、世界で起きることは、トランプ関税を広くかけると、インフレが起きると同時に生産と消費が減り、世界はインフレ下の不況、すなわちスタグフレーションに陥るおそれが大きいということです。
・こんな単純明快なことをトランプ大統領が知らない、もしくは理解していない、とすれば信じがたいことでしょう。トランプ氏がいつ、どこで経済学の基本を学んだかは知りませんが、彼が信ずる関税の効果についての考え方はどうも200年前の帝国主義時代に支配的だった「重商主義」の観念に基づいているように思います。
・それは技術的な優位性を確立した英仏のような帝国主義時代の覇権国が、従属国を従えて閉鎖的な経済圏を形成した「ブロック経済」の時代に活用された考えです。
・ブロック経済を率いる覇権国は自国を中心とするブロック経済を、外の経済圏からの関税攻勢から守ることができます。彼らが高い関税をかけてきても技術的優位性があるので、無理に関税を負担して輸入品を買わなくても済むからです。逆に、覇権国は技術的に優れた製品を高関税をかけて他の経済圏に売り込むことができ市場を拡大することができます。
・このようなブロック経済圏間の帝国主義的競争がやがて第一次そして第二次世界大戦につながったと言われています。
・世界大戦の惨禍を経験した世界では、経済学はもはや重商主義のような考え方を採用していません。現代の国際貿易の理論は、基本的に“比較優位(comparative advantage)”の考え方に基づいています。それは技術的に比較優位のある製品や方法に資源を集中して経済競争に勝ち、比較優位のないものは外から導入することです。
・そうすることで生産も消費も増え、世界経済は発展します。第二次大戦後の数十年間は、そうした自由で開かれた国際貿易をつうじて世界経済は飛躍的に発展し成長しまし...


