●人間の土台が揺らいではいけない
―― 先生は「60歳からが、人生は本番だ」とおっしゃっています。この言葉はやはり年を取ると響いてくるようで、自分があと10年で60歳になるという方からも、これについてもう少し教えてほしいと言われています。
田口 生まれてから20歳までは、モラトリアムです。これは準備期間ですから準備をしなければいけない。私は講談師ではありませんが、最近は渋沢(栄一)や北里(柴三郎)などについて話してくれないかとのリクエストに応えて話す時があります。彼らに共通しているのは、元服(15歳ぐらい)までの過ごし方が本当にしっかりしていて、人間の土台作りが実践できていたことです。江戸期の人はさらにそうです。
人間の土台とは何かというと、土台は揺らいではいけない。したがって、不動心や自己の確立ということを、昔は徹底的に教えてもらえました。現在では知識教育で、「これを覚えろ」の一辺倒です。スポーツをやっていたり、書道の先生についていたり、ご両親が立派な人であったりでなければ、そんな機会を今は持てない。運に懸かっているような、情けない状態になっています。
―― なるほど、現代人の土台は運に懸かっているわけですね。
田口 したがって、「運を強くしなければいけない」ということは、言っておかないといけません。
●運を強くするためには「徳」を積むしかない
田口 松下幸之助に「経営者の条件は何ですか」と聞くと、「運が強いことです」と答えられました。さらに「運を強くするにはどうすればいいのですか」と聞くと、「徳を積むことしかない」と言われました。ところが今や、「徳を積んでくれ」と言っても、「何をどうすればいいのですか」と問われる世の中です。
徳とは何か。「自己の最善を他者に尽くしきる」ことだと、私は解釈しています。私の辞書で「徳」を引くと、そう出てきます。その内訳として本当に大切なことは何かというと、これまで何千万年、天が無償で人間のためにしてきたことを見ることです。天は、空気や太陽エネルギーを送り届けるなど、いろいろなことをやっている。しかも、時たま請求書が届いたり、天から使いが来て「これだけやってあげているのだから、いくらか払ってくれよ」と言ってきたりはしない。まったく我関せず、「見返りは要らない」と尽くし続けている。この天のありようを「道」と言います。
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