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ネットで教養を身につけるときのポイントとは

今こそ問うべき「人間にとっての教養」(4)ネットメディアと本の未来

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
情報・テキスト
ネットメディアの登場によって、テレビや新聞など既存のメディア、広告のあり方に変化が起きている。もちろん本も例外ではない。教養を得るための大事なソースである本が生き残っていくためには、ネットとうまく共存していくことが必要である。それはどのようにして可能なのか。本とネットのこれからの関係について考察する。(全7話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:23
収録日:2021/03/25
追加日:2021/05/20
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≪全文≫

●ネットで教養を身につけるときに見るべきポイントとは


―― そうした意味でいうと、ちょうどわたしたちのメディア(テンミニッツTV)が、ネットで新しい教養のあり方を提案しています。今回の橋爪先生の講義もそうですが、いろいろな先生に出ていただいて、お話をしていただくことを目的にしています。その際に受け手としては、ネットで教養を得て、また情報を取捨選択するために、どのような視点で見ていけばいいのでしょうか。

橋爪 このテンミニッツTVは、発信者が特定されています。それを皆さんに伝える流し手も特定されています。そこにポリシーがあります。そのポリシーに基づいて、まず発信者を選んでいます。

 そして、発信者を選ぶ理由の中には、視聴者にとって有益である、内容が信頼できる、面白いなどの基準があります。これは本を作るときの基準と、だいたい似ているのですね。

―― そうですね。

橋爪 それから流し方も電子的になり、映像としてネット上に流れますが、そのコンテンツも本とほぼ似たコンセプトです。これは、ネットの時代に本離れが進んでいることに対して、これ以上そうしたことが起こらないように、本に遜色がないクオリティのものをネットで伝えましょうというのがテンミニッツTVのコンセプトだと思います。

―― はい。

橋爪 つまり、その本質は本なのです。本を書くから本があり、本を書く人が主に送り手です。そのいわば二次創作として、ネットコンテンツを再生産するというやり方です。これはネット環境に適応して、本が生き残るというか、本が適応するというやり方です。これをきっかけに本を読む人もいるかもしれません。

―― そうですね。

橋爪 本とネットとは、共存していかないといけない。なぜなら、今はネットにサポートされないと本も売れないからです。

 ということで、テンミニッツTVは有意義な試みだと思います。こういうものがもっとたくさん出てきていいと思います。そうすると、ネットにしかなじみがない人も、こういうものに触れて、ネットと本は違うということが分かったりします。

―― ありがとうございます。


●「人間から人間に伝わる」ための方法論


―― わたし自身は編集者の経験があります。もちろん本の世界と、こうした動画の世界は違いますが、わたしが編集者時代に思っていたのは、著者の先生と話をするのが非常に面白いということです。その本のエッセンスを分かりやすく説いていただくことがよくあったので、このテンミニッツTVのメディアでは、ぜひそういうことができればと思います。その本を書いている先生方が、ご自分の知見をご自身の言葉で話してくださるというのは、面白い取り組みだからです。先生ご自身は、ご本もお書きになって、さらにまた、こうしたメディアで発言されるということに対して、どのような意識をお持ちでしょうか。

橋爪 まずネットがない時代から、顔を突き合わせる、フェイス・トゥ・フェイスのパーソナルコミュニケーションと、文字を通じた出版や読書というコミュニケーションの両方がありました。

 学校を考えてみると、学校には朝、登校してから下校するまでの間、ずっとそこにいます。同級生がいて、教員がいて、顔を突き合わせています。また、授業があります。授業には本というか、教科書があります。

 でも、教科書は読めば分かるのになぜ教科書の他に授業があるのかというと、それをよく理解している教員が、ここはこうですよと生徒たちに教えてくれることに意味があるからです。つまり、人から聞くということはそれだけインパクトがあることなのです。教科書は短いけど、(教員がいれば)質問もできるし、練習問題も解答できる、そういうパーソナルなコミュニケーションの中で、いろいろなものが伝わっていくのです。

 今のが初等・中等教育だとすると、大学の場合は講義があります。印刷術があまり発達していなかったときは、本は高いものでした。そこで、教員がノートに講義を準備して、それを読み上げていました。読み上げると、みんなそれを聞きながら、大学ノートに一字一句書き写していきました。それが普通だったのです。

 どうしてかというと、学術出版はなかなか大変で、そんなに出版なんかできなかったからです。だから講義を書き写して、それを一生持っていて、知的財産としていたのです。本をマスプリントするチャンスが講義でした。そうして知的財産を増やしていきます。そして、その講義録を出版ことも少なからずありました。

 このように、講義そのものは対面でも、書き言葉で行われているケースもありました。セミナーだと、論文を読んでディスカッションしたりします。だから、対面のダイアローグの部分と活字の部分と、もともと2つあるのです。その大学の枠を超えて、一般読者に届くように...
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