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AIに本は書けるのか~AIと人間の違いを考える

今こそ問うべき「人間にとっての教養」(7)知の中継地点としての気づき

橋爪大三郎
社会学者/東京科学大学名誉教授/大学院大学至善館教授
概要・テキスト
昨今、AIの進化が目覚ましい。将棋界ではプロ棋士がAIに敗北したことが話題になることもある。ではAIは本が書けるのだろうか。人間は本が書けるし、本を読むこともできる。これはどういうことなのか。本は、伝える価値があると大勢の人が思い、大昔から歴史的に伝え継がれてきたものだ。つまり、いつの時代もそれを受け取る人間は、知の最終地点にいて、かつ中継地点にいる。そのことに気づかせてくれることも教養なのだ。(全7話中第7話)
インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:36
収録日:2021/03/25
追加日:2021/06/10
タグ:
≪全文≫

●AIに本は書けるのか


―― これはなかなか難しいレベルの話です。将棋の話でいうと、最近、コンピュータも思いつかない手が、第何局、第何手目に出たという話があります。この状況を理解するためには、この一手が今までと全然違う手だったというのが分からなければなりません。また、先ほど先生がおっしゃったように、論理を積み重ねていった場合に、「いや、この論理の積み重ね自体に無理があるのではないか」「これは積み重ねた論理が間違っているのではないか」というのも、分からなければいけないんですね。

橋爪 AIは将棋ができます。では、AIは本が書けますか。

―― なるほど。それは面白い問いですね。

橋爪 AIはなぜ将棋ができるか。まずもし盤面がめちゃめちゃ膨大、例えば1万×1万だったならば、スパコンでもなかなか難しい世界になってしまいます。

―― 計算処理が難しいということですね。

橋爪 そうです。計算処理が膨大すぎます。

 それから、チェスと違って将棋は取った駒をもう一回使えます。だから、チェスよりも場合の数が桁違いに複雑なはずです。

―― そうですね。取った駒は好きなところに指せますからね。

橋爪 はい。場合の数が増えてしまうんですが、何億手の中で良い・悪いを判断することができる。つまり、結論までいきませんが、人間の能力を超えるところまではいったということです。そのため、AIは将棋が指せていて、プロに負けないレベルにまで至っています。

 それに対して、本を書くという作業においてはどうか。まず盤面が分かりません。将棋は駒を使い、本は言語を使います。普通の言語の使い手のボキャブラリーは2万~4万語なので、将棋の駒より数が多いですね。

 それから、盤面に当たるところが、本だといったい何なのかが分かりません。だから、AIに本を書かせようとしても、書かせ方がよく分かりません。これは良い本か悪い本かをAIが判定するというのはまだまだ先の話です。

―― そうですね。本当にそうだと思います。

橋爪 今はまだ全然できません。でも不思議なことに、人間は本を書いています。人間はなぜ本が書けるのか、そもそも人間はなぜ言葉でものが考えられるのかということについて、まだセオリーさえありません。コンピュータは言語の自動翻訳やさまざまな処理をしていますが、これは初等的なことにすぎません。大したセオリーもありま...
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