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アウグストゥスが強調した「権威」、象徴としての街道

江戸とローマ~アッピア街道と東海道(2)権威に通じる道

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
アッピア街道
写真AC
アウグストゥスが『業績録』の最後に強調したのは「権威」だった。大規模な道路建設に、多大な動員力を要するのはいうまでもないが、それは単なる権力だけでなく、「権威」を意味している。ローマの権威とは、それまでに培われた西洋文明の全てがそこに集約されているということである。ローマは「権威をもって支配せよ」ということを重視したが、ローマに通ずる道はその象徴なのだ。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:29
収録日:2021/08/20
追加日:2023/07/12
≪全文≫

●それまでの文明は集約され、ローマに通じる


―― 今回の講義のサブタイトルは「権威に通じる道」ということですが、「権威に通じる道」には、こころとしてはどういう意味を持たせていらっしゃるのでしょうか。

本村 やはりそれは、権威といえばローマであるわけですから。あるいは江戸の場合もそうで、一つの国家なり帝国の中心として、そこに人々が集まってきて、そこでいろいろな価値観を身につけ、それがまた広がっていく。

 特にローマの場合は「すべての道はローマに通ず」というように、それまでの単なる道ではない。人類の文明史が始まってからローマ帝国ができるまでには、3000年ぐらいの文明の歴史があります。

 その時代には、地球規模かどうかということまでは分かりませんが、少なくとも地中海にいたローマ人からすれば、見渡す限りの世界の文明というものが、結局ローマの中に集まってきた。そういう意味で、やはり「すべての道はローマに通ず」というのは、それまでに人類が培ってきた文明というものが、結局ローマの中に集約されている(ということです)。

 例えばポンペイ(遺跡)などには、それなりに立派な貴族たちの家が残されています。「メナンドロスの家」などは、今行っても非常に洗練されていて、「こんな立派なところに住んでいたのか」と驚く。それでもポンペイの中ですから、いわば地方貴族です。

 しかし、一緒に石碑を巡ったギリシャ史の専門家からいわせれば、「こんな建物は、ギリシャ人の目から見れば王侯貴族だな」と。ポンペイの小さな町の地方都市の富豪、あるいは貴族たちが住んだ家が、それまでのギリシャ人の目から見れば、いかに王侯貴族の生活だったか、ということです。

 そういう言葉にも表れているように、ローマの中にはそれまでの3000年の文明や知識が全部集約されて、単に軍事的・政治的な権力だけではない一つの「権威」になっているということになります。


●皇帝を名乗らなかったアウグストゥスの「権威」


本村 皇帝アウグストゥスが言った言葉にも、それが現れています。彼は、自分が王様である、皇帝であるなどと言ったことは一切なく、「自分は確かにローマの第一人者である。第一人者とはどういう意味かというと、ローマ市民の名簿の筆頭に来る人間である。だから、特別な地位にあるのではない」と。

 王様を指すのは“rex”という言葉ですし...
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