●マルクス・アウレリウスはギリシャ語で『自省録』を残した
アントニヌス・ピウスが次の皇帝に指名したのが、マルクス・アウレリウスという人物です。このマルクス・アウレリウスには『自省録』という自分の考え、あるいは経験を著した著作があります。しかし、彼は、それを誰かに見せようと思って書いていたわけではありません。
彼はローマ人ですから母国語はラテン語ですが、この時代の知識人の典型としてギリシャ語で書いています。われわれの時代ならば書類を英語で残すのと同じように、当時の知識人の中には本をギリシャ語で残すことがあったのです。その中で、彼はさまざまな深い思索をめぐらすのです。
●ストア哲学は今の時代においても大事な考え方
マルクス・アウレリウスはストア哲学者です。ストア哲学は、今の時代においても大事なところがあります。ヘレニズム時代からローマ時代にかけて、200年あるいは300年ほど、非常に広大な地中海世界がある種のグローバリゼーションを進めながら、全体としてはこの五賢帝時代に「パクス・ロマーナ」といわれる平穏な時代を築いていきました。そんな中、ものが豊かになり、それなりの繁栄をすると、人間の注意は精神的なところ、つまり心の中に向かうのでしょうか。ただ物質的に豊かになっていくところだけを追いかけていくと、際限がありません。今でもそれは大事なことだと思うのですが、それ以上にものを追求するよりも、自分の中では「心豊かな人間であるべきだ」と考える、そうした在り方がローマ時代にもありました。
ストア哲学は、マルクス・アウレリウスが出てくるよりも300年も400年も前から、この地域に徐々に出てきていたのです。その中で一番の基本は「不動心」、すなわち周りの状況に左右されない、自分だけの価値観を確立するということです。「物質的にはもうこれくらいでいいだろう。では精神的に豊かに生きるにはどうすればいいか」という心構えのようなものを求めているということで、その意味では現代の問題とオーバーラップします。
長く繁栄した時代が続いたため、ローマ時代のストア哲学は、このように不動心として周りに左右されず、自立しようという考えが定着していきました。
●ストア哲学における絶食と自死
自立には2つの意味があり、「自分で立つ」という意味と、「自分で律する」という意味ですが、自立した人...