五賢帝時代~ローマ史講座Ⅷ
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
ローマの皇帝に必要だと言われた2つの資質は?
第2話へ進む
救国の英雄にも独裁を許さなかったローマの共和制
五賢帝時代~ローマ史講座Ⅷ(1)暴君と共和制の長い伝統
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
東京大学名誉教授の本村凌二氏が、五賢帝時代について語るシリーズレクチャー。第1話の今回は、その前史としてカエサル登場までの500年にわたる共和制の長い伝統について語られる。カルミス、スキピオ、スッラカルミス、スキピオ、スッラ、カエサルらは絶大な権力ゆえに反発を受け、いずれも権力の座から追われた。(全9話中第1話)
時間:10分02秒
収録日:2018年2月8日
追加日:2018年5月12日
カテゴリー:
≪全文≫

●ローマの伝統である共和制


 紀元1世紀末に始まる五賢帝の時代について、お話しします。

 オクタヴィアヌスがアウグストゥスという称号をもらって皇帝になってから、五賢帝以前のフラウィウス朝時代の最後の皇帝ドミティアヌスが登場するまでの約120年間に、カリグラ、ネロ、ドミティアヌスという、いわゆる悪帝、暴君と呼ばれる皇帝が出てきたことは、ローマ人にとって大きなショックでした。

 悪帝、暴君といっても、果たして民衆レベルでそのことが認識されていたかは定かではありません。しかし、少なくとも知識階級でもある元老院貴族あるいは富裕層といった人たちは悪帝による処刑や財産没収の対象になったため、彼らには非常に評判が悪かったのです。

 ローマは紀元前の509年に共和制を樹立してからカエサルの時代までの約500年、そのような独裁者を置かない、共和制という伝統を守り続けていました。独裁者は基本的に良くないと考えられていたからですが、この間に「救国の英雄」とたたえられた人たちが、本人の意思にかかわらず祭り上げられ、独裁者になる危険がありました。


●カルミス将軍、いったん亡命するも戻ってケルト人を撃破


 古くは、紀元前4世紀に、第2の救国の英雄、あるいは第2のローマ創建者といわれるカミルス将軍という人がいました。彼は非常に高潔な人柄で、周辺諸国との戦争でも、巧みな戦略で勝ち続け、軍の功績においても大変大きな役割を果たしました。彼が戦争で勝つと周囲から非常に賞賛されますが、それを妬む人間も出てきます。人間の世界では常に嫉妬の念というようなものがあるのです。

 そのために彼はいったん亡命せざるを得なくなります。しかし、ケルト人に襲撃された時、やはりカミルスがいないと駄目だというので、戻って占領されたローマの街を奪還しました。もちろん彼自身が独裁者になりたかったわけではありませんが、彼に反感を持つ周りの人々がその危険性を感じていたということです。


●救国の英雄スキピオ、弾劾される


 ハンニバルを破ったスキピオもその一例です。スキピオは、ローマを苦しめたハンニバル率いるカルタゴ軍を、紀元前202年のザマの戦いで破ったため、ローマ人にとって救国の英雄として祭り上げられます。すると、カトーなどから彼に対する反発が起こります。カトー自身は高潔な人物ですが、政治活動に関する限り、嫉妬の念が強か...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹
最初の日本列島人~3万年前の航海(1)日本への移住 3つのルート
最初の日本列島人はいつ、どうやって日本に渡ってきたのか
海部陽介
明治維新から学ぶもの~改革への道(1)五つの歴史観を踏まえて
明治維新…官軍史観、占領軍史観、司馬史観、過誤論の超克
島田晴雄
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之

人気の講義ランキングTOP10
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(2)「ほめる」技術
男性は「ほめる」のが苦手?傾聴から始まる「ほめる」技術
三谷宏治
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史