フラウィウス朝時代~ローマ史講座Ⅶ
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カリグラ、ネロ、ドミティアヌス…悪帝と「記憶の断罪」
フラウィウス朝時代~ローマ史講座Ⅶ(4)ドミティアヌスの恐怖<下>
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
ドミティアヌスの治世は81年から96年にかけての15年間。その間に競技場建設をはじめ多数のインフラ整備が行われた。首都ローマばかりでなく属州への目配りも大切にした皇帝は、兵士たちも優遇する。そんな彼がなぜ「記憶の断罪」に遭わねばならなかったのか。東京大学名誉教授・本村凌二氏に、ドミティアヌスの時代をご案内いただこう。(全5話中第5話)
時間:13分38秒
収録日:2017年11月17日
追加日:2018年4月10日
カテゴリー:
≪全文≫

●相次ぐ陰謀の密告と皇帝の恫喝


 神経質なドミティアヌスのもとへ、実際にあったかどうかは別として、何度も陰謀事件や陰謀らしきものが密告されてきます。そのたびに彼は取り調べを行い、処刑することもあったでしょう。そうしたことを繰り返す中で膨らんでいった彼の猜疑心や神経過敏さを示す有名なセリフが残っています。

「皇帝というものは哀れなものだ。陰謀計画があっても、それが本当に陰謀計画であったかどうかは、自分が殺されない限り証明されない」

 「証明される」前の段階で処理しなければならないわけですから、グレーな人たちは全て処刑するなどの手段を取る場合もあったでしょう。そのため、彼の残酷さが表に出るようになります。例えば、元老院貴族たちを全員宮廷に集めて照明を消し、薄明かりしかない暗闇の中でゲラゲラ笑い出すシーンが伝えられています。

 「おかしくてしようがないよ」と彼は言います。「自分の合図一つで、お前らの首は飛ぶんだから。そう考えるとおかしくてしようがない」

 元老院貴族たちに対して、こうした脅しや威嚇のような言葉を平気で放つものだから、ますます周りの貴族からの反感は募ります。中には、自分がいつ殺されるか分からないのであれば、逆に皇帝を殺した方がいいと考える者も出てきます。それほどに、ドミティアヌスは元老院貴族たちにとっては非常に警戒され、恐れられる人物になっていきました。


●逼迫した財政のため有力者の処刑、そして暗殺へ


 財政問題、とりわけ軍事費による逼迫については、もう一つ事情があります。兄のティトゥスが若い頃、対ユダヤ戦争でリーダーとして活躍していたのに対し、ドミティアヌスには軍人としての功績がありませんでした。なんとか自分も功績を立てたかった彼は、ドナウ方面に軍隊を派遣します。大した勝利ではないものの、それなりの成果は確かに収めます。当然ながら、それには軍事費もかかることになりました。

 また一方、民衆の機嫌も取らなければいけません。彼はローマ市中に新しい競技場を造り、そこでおそらく戦車競走を行ったと考えられています。現在のローマへ行くと、楕円形のナヴォーナ広場があります。大規模な「チルコ・マッシモ」に比べれば小さいですが、そこが戦車競走に使われたらしいのです。かつては「ドミティアヌスの競技場」と呼ばれた場所が、現在はナヴォーナ広場と称されて...

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