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皇帝ティトゥスが残忍から善人に変貌した理由

フラウィウス朝時代~ローマ史講座Ⅶ(3)皇帝ティトゥスの変貌

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
ティトゥスの凱旋門
早稲田大学国際教養学部特任教授の本村凌二氏による「フラウィウス朝時代」のローマ皇帝物語。今回取り上げるのは、ウェスパシアヌスの死後、跡を継いだ長男ティトゥス。彼は皇帝になるや人が変わったような善人ぶりを見せて周囲を驚かせた。残忍で無慈悲な面のあった彼が変貌したのは一体なぜか?(全5話中第3話)
時間:10:22
収録日:2017/11/17
追加日:2018/03/27
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≪全文≫

●跡を継いだティトゥスの驚くべき変貌


 父ウェスパシアヌスを継いだのが、長男のティトゥスでした。ティトゥスという人は、少し不思議なところがあるのです。

 父の下で働いている時は、ある面では非常に民衆に嫌われていました。彼は軍人としては非常に有能だったのですが、無慈悲で残酷なところがあって、時には非合法的な手段に出ることもありました。そのように民衆や周囲の人たちは見ていましたから、彼が跡を継いだ時、周囲はおそらくギクッとしたのではないかと思います。

 ところが、彼は皇帝になったら急に善人になってしまったのです。いわば、非常に好感の持てる皇帝になったということです。ローマの皇帝の周り、あるいは宮廷の中では、密告とか陰謀というものがある程度渦巻いているわけですが、そうした密告自体を積極的に禁止しました。また、帝になった時、ちょうどコロッセオが完成しますから、その完成記念のために100日間ぶっ続けで剣闘士の戦いを中心とする見世物興行を行いました。古代という時代は、もちろん前近代的時代全体がそうですが、テレビもラジオも何もないわけですから、見世物興行は大変な娯楽として歓迎され、それを観た民衆は大いに歓喜しました。

 それから同時期のもう一つの大きな出来事として、79年のヴェスヴィオ山の噴火によって、ポンペイやヘルクラネウムといった都市が埋没してしまったことが挙げられます。それに対して、ティトゥスは非常に迅速に行動をして、いわば危機を克服します。彼はそうした素晴らしい有能ぶりも見せるのです。皇帝自ら被災地を訪れるということもちゃんとやりました。どこかの政治家の中には3.11の後、被災地を一切訪れなかったと批判された人もいますけれども、ティトゥスは実に迅速に対応しているのです。まさに仮面をかぶったかのように高潔な慈愛の人物に変身してしまったということです。


●父の時代にはあえて汚れ役を買っていたという説


 もっとも、別の見方もあります。ティトゥスは変身したのではなく、もともと善良な人間だったけれども、父親が皇帝の間いわば汚れ役になっていたのではないかということです。皇帝は全てにおいて善い顔をするということでは務まりません。結局どこかに皇帝に対して好意を抱かない人たちがいるため、そういう人たちをどうやって黙らせるかということで、ティトゥスが皇帝の父を表に立てて裏面でそ...
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