キケロ『老年について』を読む
老年が惨めと思われる4つの理由とは…キケロの論駁に学べ
キケロ『老年について』を読む(1)キケロの評価と「老年の心構え」
哲学と生き方
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
『老年について』の著者キケロは、カエサルやポンペイウスと同時代にあたり、古代ローマ史上随一の弁論家で、哲学者、また政治家でもあった人物である。多くの著作を残したが、政治的発言がしにくくなり、引退生活を送る中で著したのが本書である。本書は老年のカトーに若い(小)スキーピオとラエリウスが質問する形で構成されるが、カトーは最初に老年が惨めと思われる理由を4つほど挙げながら、それらに反駁して「老年の心構え」を論じていく。(全9話中第1話)
時間:14分23秒
収録日:2023年6月12日
追加日:2024年1月6日
収録日:2023年6月12日
追加日:2024年1月6日
≪全文≫
●引退後に『老年について』を書いたキケロとはどんな人物なのか
―― 皆さま、こんにちは。本日は本村凌二先生に、キケロの『老年について』の講義を賜りたいと思います。本村先生、どうぞよろしくお願いいたします。
本村 こちらこそ。
―― キケロの『老年について』は岩波文庫だと、けっこう薄めの本ですね。
本村 そうですね。
―― 今日なぜこの講義を撮るかですが、この本は基本的に登場人物のカトーが、老年が惨めになると思われる4つの理由を挙げ、それぞれに反駁し、「老年とは非常に充実できるものである」と説いたものです。これは現代的な問題としても驚くぐらい使える内容で、身に覚えがあることばかりです。
この本について、先生はどのようにお感じですか。
本村 「人生100年」という時代になりましたから、定年退職が65歳や70歳ぐらいになって、その後35年とか30年ぐらい生きなければいけない。老後の心の持ち方を普段から気をつけておく必要があります。その場になって気をつけられることではありません。やはり中年ぐらいになったら、少しはそういう心構えが必要ではないか。キケロの本を読んでも、そのように感じました。
―― では順次見ていきますが、まずは著者のキケロです。手短にご紹介いただくと、どのような方でしょう。
本村 ローマ史の中では大変な弁論家であり、哲学者です。政治家でもある。ちょうどカエサルと同時代で、6歳ぐらい年上です。ところが周りにポンペイウスやカエサルなど錚々たる人物がいるから、政治家として本当のトップまで行けなかった。けれど、非常に弁論がうまい人ですから、それを成し遂げた。それからたくさんの著作を残したので、圧倒的に知名度が高くなった。
(キケロやカエサルが生きた)紀元前1世紀は、ローマが共和政から帝政へ変わる大きな節目の時期です。カエサルを中心に論じるか、キケロを中心に論じるかで、すごく姿が変わります。
大きな要因として、19世紀のローマの歴史家で唯一ノーベル文学賞をもらった、テオドール・モムゼンがいます。彼が非常にカエサルを絶賛して、キケロを酷評しています。それが大きく影響していて、キケロに対する評価は、特に歴史家の間では高く評価しない傾...
●引退後に『老年について』を書いたキケロとはどんな人物なのか
―― 皆さま、こんにちは。本日は本村凌二先生に、キケロの『老年について』の講義を賜りたいと思います。本村先生、どうぞよろしくお願いいたします。
本村 こちらこそ。
―― キケロの『老年について』は岩波文庫だと、けっこう薄めの本ですね。
本村 そうですね。
―― 今日なぜこの講義を撮るかですが、この本は基本的に登場人物のカトーが、老年が惨めになると思われる4つの理由を挙げ、それぞれに反駁し、「老年とは非常に充実できるものである」と説いたものです。これは現代的な問題としても驚くぐらい使える内容で、身に覚えがあることばかりです。
この本について、先生はどのようにお感じですか。
本村 「人生100年」という時代になりましたから、定年退職が65歳や70歳ぐらいになって、その後35年とか30年ぐらい生きなければいけない。老後の心の持ち方を普段から気をつけておく必要があります。その場になって気をつけられることではありません。やはり中年ぐらいになったら、少しはそういう心構えが必要ではないか。キケロの本を読んでも、そのように感じました。
―― では順次見ていきますが、まずは著者のキケロです。手短にご紹介いただくと、どのような方でしょう。
本村 ローマ史の中では大変な弁論家であり、哲学者です。政治家でもある。ちょうどカエサルと同時代で、6歳ぐらい年上です。ところが周りにポンペイウスやカエサルなど錚々たる人物がいるから、政治家として本当のトップまで行けなかった。けれど、非常に弁論がうまい人ですから、それを成し遂げた。それからたくさんの著作を残したので、圧倒的に知名度が高くなった。
(キケロやカエサルが生きた)紀元前1世紀は、ローマが共和政から帝政へ変わる大きな節目の時期です。カエサルを中心に論じるか、キケロを中心に論じるかで、すごく姿が変わります。
大きな要因として、19世紀のローマの歴史家で唯一ノーベル文学賞をもらった、テオドール・モムゼンがいます。彼が非常にカエサルを絶賛して、キケロを酷評しています。それが大きく影響していて、キケロに対する評価は、特に歴史家の間では高く評価しない傾...
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
人気の講義ランキングTOP10
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
養田功一郎
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎