●「リスキリング」のポイントは将来からのバックキャスティング
では、ライフシフト概論<その4>に進みたいと思います。ここでは少し毛色が変わりますが、「日本の再活性化へ向けてのリスキリング」ということを取り上げます。
ずっと「終身知創」ということを言ってまいりました。こうした学ぶ癖や学び直しを多摩大学では「知の再武装」といいますが、世の中では最近「リスキリング」という言葉も出てきました。とにかく学ぶということに対しての興味や感性をぜひ養ってほしいと思います。
その上で、特に大事なのが、VUCAの時代における人工知能革命(DX)が非常に大きな波であるというところです。これは、今のリスキリング・ブームの火付け役だったわけですが、それも含めて「終身知創」をしていかなければいけないということです。特に今回は、人工知能革命やデジタルトランスフォーメーションで世の中が変わっていく中で、ミドルシニアがどのようにリスキリングしていくべきか、ということについて触れてみたいと思います。
コロナ後の世界というものもあり、時代は大きく変わっていきます。それを推進しているのがデジタルです。そういった中、前回(第5話で)お話しした「青銀共創」を実行して、若い人たちから学ぶことが重要ですが、シニアなりに学んでいく必要があると思います。若い人たちと競争しても、そもそもついていけない状態があるわけです。そうした中、自分がどんな立ち位置をつくっていくかについて、今回は触れたいと思います。
まずは、われわれが持っている視点と持たなくてはならない視点についてお話ししましょう。「成長戦略」という話をしたと思いますが、この三角形の下側は、今年から来年にかけての視点ではなく、将来からのバックキャスティングになります。
例えば、2030年でなくても構いません。2025年、あるいは40年でも結構ですが、その時点でこのようになるのではないか、あるいはこうしたいという像を描き、そこからバックキャスティングをして、「今、自分は何をすべきか」ということを決めていく。この発想法が非常に大事です。
これは、われわれのようなミドルシニアで、特にあくせく来てしまった人ほどよく分かると思います。若い人たちはまだ本当に渦中で、われわれに「あれをやれ」「これをしろ」と言われている最中なので、将来が見えにくくなっています。われわれこそが、もっと先を見ていくことをもう一度自覚していく必要があると思います。
●短期的なことへの集中から長期的な人材育成へ
第2話も似たような図を用いてお話ししましたが、図の右上、「長期」の「人」に焦点を当てると、ここは長期的に人材を育成していくところです。「短期」のところは何かというと、人の確保です。仕事を回していくためには人を確保しなければいけない、頭数をそろえなければいけないというのが「短期」の「人」の部分です。
長期的に考えると、自分でどんどんモチベーションを持って自分を育てていくような人(「自走自律」)を、どうやってつくるかということがむしろ重要になります。
そのような視点を持っていただくことが重要であり、「業務改革」という面で見ても、長期的に仕事を変えていくことを含めて、とにかく先を見通し、先の「人」を意識していくことが大事なのです。先ほど言ったように、ベテランの人ほど「今までちょっと短期的すぎた」ということに気づいているはずです。
私の感覚では、「短期」のところに9割ほどの時間を使っているようです。「長期」のところ、特に「人」については、「業務」と比べると優先順位が落ちてしまう。つまり、目の前の仕事の結果がどうなるかというのが結構重要で、「人のことなど構っていられない」ということになりがちだと思います。
ですから、長期的に人材を育成することは一番後回しのようになってしまうということです。でも、リスキリングが叫ばれているわけですから、それが社会的に非常に重要になったのが今の時代ということです。
クレイトン・クリステンセン(経営学者)に「成功するものは失敗する。なぜならば成功しているから」という有名な言葉があります。成功していた人たちは、その成功を突き進んでいくので、そのような前提条件にとらわれない別の人がやってきたときに負けてしまうということです。それは、短期のところに集中していると先の長期的なこと...