●時間的な奥行きと広がりこそが戦略構想力を決める
センスのある経営の第3の条件は、思考が直列だということです。センスのない人が戦略を考えると、箇条書き大作戦になってしまいます。要するに、ToDoリストのようになってしまうのです。そうではなくて、つながっているということが大事です。これは『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社、2010年)に詳しく書きましたので、よろしければ御一読ください。
商売事には飛び道具がありません。ところが、センスのない人は戦略をつくるとなると、すぐに飛び道具を探しに行ってしまいます。何をやるにしても、AIでもFinTechでも構いませんが、「こうすればああなって、ああすればこうなる」というようなストーリーの中に位置付けて初めて意味が決まります。算数の時間に順列組み合わせを習ったと思いますが、戦略は組み合わせではありません。むしろ順列です。順列の中で初めて一つ一つのアクションやディシジョンの意味が決まるのです。
組み合わせと順列の違いは、時間が入っているかどうかということです。時間が入ってくると、ビンタしてから抱きしめるのと、抱きしめてからビンタするということでは意味が変わってきます。こうした時間的な奥行きがなくなってくると、すぐに「シナジー」などと言い出す人が現れます。私はこれがセンスのない人の特徴だと思っていて、「シナジーおじさん」と呼んでいます。その人の頭の中は、全てが組み合わせ問題になってしまっているのです。時間的な奥行きが失われています。
しかし実際には、時間的な奥行きと広がりこそが戦略構想力の8割方を占めているのです。私がセンスがあると思う人は、「それでだ…おじさん」です。例えば、「社長、どうやってもうけるんですか」と聞くと、「まずこういうことをやるでしょう。そうすると、だんだんこうなってくるよな。そうすると、こういうことができるようになるじゃないか。それでだ」と応えてくれる人です。ここには思考の時間という奥行きが見られます。
●センスとは抽象と具体の往復運動だ
次に4つ目の条件です。一言でいうと、センスとは抽象と具体の往復運動です。
私はずっとファーストリテイリングを手伝ってきましたので、会長の柳井正氏を例に取りましょう。
商売というものは、ありとあらゆることが具体的です。成果は具体的にしか意味を持ちま...