●センスのある人は自分の話を面白がれる
経営のセンスの条件の7つ目は、話が面白いということです。話が面白いといっても、プレゼンのスキルのことではありません。ソニー・ミュージックエンタテインメントの代表取締役社長を務めた丸山茂雄氏という、日本の軽音楽界の重鎮がいます。私は大学を卒業後、最初の仕事はクラブ歌手をしていました。クラブやキャバレー、ニューハーフのショーパブなどでステージショーを行い、歌ったりダンスをしたり演奏したりしていたのです。もともとはスタジオミュージシャンになりたかったのですが、うまくいきませんでした。20代はこういった仕事をしていました。
その頃、丸山氏はソニーミュージックの社長にして、日本の軽音楽、ポピュラーミュージックの大御所中の大御所です。当時はカセットの時代ですから、丸山氏にデモテープを聞いてもらいたいという人が、市ヶ谷のソニーミュージックの前で並んで待っていることもありました。私もぜひ一度聞いてもらいたいと思っていました。
たまたま運良く丸山氏がライブハウスか何かにいて、声を掛けたことがあります。デモテープを渡すと、丸山氏はウォークマンを持っていて、その場で聞いてみてくれたのです。10秒聞いた後、「才能だからな」と言って返してくれました。単にやめた方がいいと言われただけのことなのですが、その時に、ものすごい吸引力のようなものを感じたことを覚えています。今の仕事をするようになってから、私はソニーのアドバイザーを長く務めましたが、丸山氏とはよく話しました。
丸山氏はものすごく明るい方です。ただし、性格が明るいこととは違う明るさだと思います。この明るさは、商売をする時にいつも「こうすればひょっとするともうかるかな」と考えているところから来るものです。つまり、絶対にうまくいくと考えているからこそ出てくる明るさなのです。ファーストリテイリング会長の柳井正氏も、性格的には暗い方ではないかと思いますが、明るく感じられます。それはいつも「ひょっとしたら」という風に戦略を考えているからでしょう。そう考えることがなぜ明るさにつながるかといえば、戦略を自分が一番面白がっているからです。
私がガリバーの戦略に興味を持ったのは、ガリバーで副社長を務めた友人の村田育生氏の話を聞いたからです。20年ほど前、みんなで集まって雑談しているときに、村田氏が面白い話を聞かないかと言うのです。「中古車の商売始めたんだけどさ」、というわけです。面白くなさそうだったので、最初は全員で聞かないと言っていたのですが、無理やり聞かされたのが先ほどのガリバーの話でした。彼はそれこそ「それでだおじさん」で、非常に話が面白かったのです。どうしてかというと、話している本人が一番面白がっていたからでしょう。自分の話を面白がれるというのも、センスのある人だと思います。
●日本電産には想定問答集が一切ない
経営のセンスのある人に絶対に共通している最後の条件は、良しあしよりも好き嫌いを優先するということです。私はいろんな方に、その人の好き嫌いだけ聞くと経営の本質が一番分かるのではないかと考え、『「好き嫌い」と経営』(東洋経済新報社、2014年)という本を作りました。
日本電産の創業者・永守重信氏がおっしゃっていたのは、オーナーシップが一番、自分でやっていて楽しいということです。一番いいのは任侠の親分だそうです。株を持ってそれを支配したり管理するのではありません。部下が心酔してついてくる、その部下を統率するのが醍醐味なのだそうです。また、株主総会が大好きだと言います。経営者のひのき舞台で、マイクを持ったら離しません。素晴らしいのは、この会社には想定問答集が一切ないことです。永守氏に言わせると、自分が経営しているのに、どうして他人に想定させるのだというわけです。言われてみれば当たり前ですが、こうした好き嫌いから、ああいった経営スタイルと企業が出てくるのかとも思います。
●とにかく会社が大きくなっていくのが好きだ
ファーストリテイリングの柳井正氏も、とにかく会社が大きくなっていくのが好きだと話しています。ニッチにとどまっていれば、大きくなれません。競争をいとわず、どんとこいと構えています。反対に、雑貨が大嫌いだそうです。例えばクッションを、一人の人が毎年5個も6個も買わないでしょう。雑貨に注力する限り、会社は大きくならないというのです。しかしヒートテックであれば、毎年5枚は買うでしょう。こうしたことは、経営者の中から出てくる好き嫌いです。また、「ファッション」も大嫌いだそうです。こんなふわふわしたことをしていては、会社は大きくなりません。もっと万人が良いと認める機能や快適さ、ベーシックな服が好きだというのです。これは良しあしではなく、好き...