●商売に飛び道具はない
時間的な奥行きこそ、戦略構想力の大半を占めるほど大切なものです。例えば、僕とほとんど同い年のプロ野球選手に、山本昌選手がいます。つい最近まで現役で活躍していましたが、速球といっても135キロぐらいしか出なかったようです。一方、山本選手の友だちのイチロー選手は大変な身体能力を持ち、ピッチャーと同じようにマウンドに立ってボールを投げれば、今でも150キロ近く出るというのです。2人は仲が良く、個人練習をよく一緒にしていたらしいのですが、ある時、イチロー選手が山本選手にこう聞いたそうです。スピードガンで測ると、イチロー選手の方が10キロ以上速いのに、バッターはやはり山本選手の方が球が速く感じると言うが、一体これはなぜなんだ、と。
山本選手の答えは、プロの投手の腕の見せどころは、速い球ではなく、速く見える球を投げられるかどうかだ、というものでした。球が速く見えるようにするには、配球、すなわち順番が大事なのです。例えば、外に大きく流れるスローカーブを投げた後、内角高めぎりぎりに来る球は速く見えます。これは、戦略が順番の問題であるという典型的な例だと思います。
ストーリーを順列として考えることが必要なのは、誰もが200キロの速球を投げられるわけではないからです。これは商売でも同じで、飛び道具がないということが商売の本質でしょう。釈迦に説法ですが、商売の素人は戦略をつくるとなると、すぐに必殺技を求めます。しかし実際は、そんなものはないということだと思います。
●飛び道具に頼らず、戦略のストーリーで勝負するしかない
もう少しスポーツの例を続けます。確かに、世の中にはウサイン・ボルト選手のような人間飛び道具みたいな人がいます。こうした人はどうしても勝ってしまうのですが、しかし、それが成り立つのは短距離走だけだと思います。僕の友人で、昔ハードル競技をやっていた為末大氏と、リオオリンピックの後に話をする機会がありました。ボルト選手はやっぱりすごいという話をすると、為末氏いわく、「ボルトの成功要因はただ一つなんです。つまり、ボルトに生まれたことしかない」と言うのです。
ところが同じ短距離走でも、100×4メートルのリレーになると、これまで言ってきたような意味での戦略が結果を左右するようになってきます。つまり、順番とつながりの問題です。ただ、とはいえやは...