●デリバリーウインドーの約束をする
Amazonは今ではeコマースの帝王と言われたりもしますが、昔からずっと、特に投資家やアナリストに批判されてきたことがあります。eBayやGoogleなど、同じ頃に出てきた他のネットベースのベンチャー企業と比較して、ROA(Return On Asset:総資産利益率)が著しく低いのです。Amazonはネットの会社であるにもかかわらず、アセットが非常に重く、分母が大きいために、いつもROAが低くなっています。これは、Amazonが世界中に巨大な倉庫をたくさん造っているからです。創業者のジョフ・ベゾス氏は、自社在庫を積み上げたいのだ、とよく語っていましたが、この点にアナリストの批判が集中しました。
というのは、eコマースの利点は、小売りの宿命だった在庫から解放される可能性にある、と考えられていたからです。何かのきっかけで顧客を捕まえれば、サプライチェーンが全部ITでつながっていますから、自社で在庫を積まなくても済みます。これを夢見て投資した人がたくさんいました。したがって、なぜ倉庫を造って在庫を積むのか、と批判が出てきたのです。
しかし、ジェフ・ベゾス氏にはストーリーがありました。Amazonのコンセプトは購買意思決定のインフラでした。それを提供するためには、eコマースでよくあるように、顧客が買おうとしている商品が、例えば「3~5営業日以内に出荷」であってはなりません。これでは顧客は意思決定できないからです。むしろ、デリバリーのタイミングがきちんと約束されていなければ、顧客は購買の意思決定を下せません。ですからAmazonは、例えば「8時間と4分以内に発注すれば、明日には届く」という約束をします。これはクイックデリバリーではなく、デリバリーウインドー(配送期間)の約束をするということです。Amazonにとってはこちらの方が大切なのです。
誰でも投資すれば、早く届けることは可能です。しかしもっと大切なのは、「あなたが探しているこの本は、2週間は絶対に届かない」と約束することです。これはアウトオブストック(品切れ)を意味しますから、顧客はAmazonで中古の本を探すかもしれないし、リアルの本屋に行こうと思うかもしれません。これが、顧客の購買意思決定のインフラになるということの意味です。それを実現する魔法の杖はありませんから、自社で在庫管理をするしかなくなります。ストーリー全体を見るとこのよう...