●コンセプトは商売の基である
この講義の後半は、戦略のストーリーを作るときに最も大切だと考えられる、2つのことについてお話しします。1つ目は、ストーリーの起点にあるコンセプトです。これは商売の基(もと)と言えるほど大切なもので、これが決まらないと先には進めません。一言でいえば、何を売っているのか、に対する答えです。
●サウスウエスト航空が売るのは、空飛ぶバス
1971年、サウスウエスト航空は、後のLCC(Low-Cost Carrier:格安航空会社)の原形となった戦略を初めて打ち出します。経営者のハーバート・ケレハー氏が、この戦略を構想しました。彼は40歳過ぎまで弁護士をしていて、事務所がテキサス州のサンアントニオにありました。クライアントは近隣の大都市のヒューストンやダラスに多く、何かあればすぐに飛んでいかなければいけません。ケレハー氏の弁護士時代の最大の不満は、移動に疲れ果ててしまう、ということでした。サンアントニオからヒューストンやダラスまでは、およそ東京―名古屋間ぐらいの距離があり、車を運転していくには遠い距離です。バスも走っていますが、時間がかかります。かといって、飛行機は値段が高く、何よりも人間が飛行機の時間に合わせなければならず、非常に不便です。
そこで彼が思い付いたのは、サンアントニオ・ヒューストン・ダラスを、まるで巡回バスのように、ぐるぐるひたすら飛び回る航空会社でした。自分のように困っている人は他にもたくさんいるはずだ、というわけです。こうしたアイデアを思い付いて、それをレストランの紙ナプキンに書いたのが、サウスウエスト航空の始まりでした。
つまり、サウスウエスト航空では本当のところ何を売っているのかというと、エアラインではなく、空飛ぶバスだということです。これがサウスウエスト航空のコンセプトであり、ここから戦略が始まっていきます。ノースウエスト航空やアメリカン航空と競争するのではなく、車やバスで移動していた人たちを、飛行機に乗せてしまおうという戦略です。実際、当時ケレハー氏は会社を作った際に、全米バス組合に登録を申請して却下されています。航空会社ではあっても、気持ちはバス会社だということでしょう。
●インターネットでものを売る本質を考える
また、ご存じのようにAmazonは、ネットで本を売るところから始まっています。もう20年も前のことですが...