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経営者は経営に命を懸ける覚悟を持つべき

生き続ける松下幸之助の経営観(6)命を懸けて経営する

江口克彦
株式会社江口オフィス代表取締役社長
情報・テキスト
松下幸之助の考えは、どんなときも経営のことを頭から離してはならず、また、勝てば官軍という考えを経営に持ち込んではならない、というものだった。その考えを受け継いだ株式会社江口オフィス代表取締役社長の江口克彦氏が、命を懸けて経営に取り組むことと、人間性にかなったやり方で利益を上げることの重要性を説く。(2018年5月31日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「生き続ける松下幸之助の経営観」より、全12話中第6話)
時間:09:24
収録日:2018/05/31
追加日:2018/11/14
≪全文≫

●経営者は経営に命を懸ける覚悟を持つべき


 私は松下幸之助さんのことを23年間見てきましたが、経営や商売のことを松下さんほど本当に真剣に真正面から命を懸ける思いで考えていた人はいないと思います。私自身も、西宮のお茶室で心を許して遊ぶような者は、経営者たる資格はないと言われました。

 松下幸之助さんは、織田信長を引き合いに出して、信長は酒を飲んでいても敵国や隣国のことを片時も頭から離さなかっただろう、そうでなければ天下統一はできなかっただろう、それは経営者であっても同じことだ、と言いました。

 それは、ゴルフをしたり飲みに行ったりしてはいけないということではありません。ゴルフをやったり飲みに行ったりしていても、頭から商売や経営のことを外してはいけない、そういうことです。

 私自身もその2年後に経営者になるのですが、この時、驚いた松下幸之助さんの言葉を、後に実感することになります。10人の組織でも100人の組織でも10,000人の組織でも100,000人の組織でも同じことですが、組織の中で1人くらいは、経営のため、会社のため、社員のため、お客様のため、自分の命を落としてもいいというくらいの覚悟を持っていないと、組織は発展しません。言ってみれば、人生マイナス経営イコールゼロというような覚悟を持った人が必要なのです。

 これは言い過ぎだと思う人もいるかもしれません。しかし、そう思われるのも覚悟の上ですが、私自身はこのように思ってきました。ですから、心を許して遊ぶような者は経営者たる資格がないと、そういう松下幸之助さんの思いが、私に大きな影響を与えました。これは私が34歳の時の話です。


●勝てば官軍ではなく、人間性にかなったやり方で利益をあげるべし


 私が35歳の時の話をします。私が松下幸之助さんに報告をしていたら、当時松下グループの会社の専務をやっていた方が入ってきて、先に報告をさせてほしいと言ってきました。報告をした後、二人で雑談を始めたのですが、その方は、経営というものは、売り上げを伸ばして利益を上げて、いわば勝たなければどうしようもない、という話をしました。

 それに対して私は、その方は5歳くらい年上でしたが、反論をしました。私は相手構わず意見を言う方でして、松下幸之助さんにも自分の思ったことをぼんぼんと言っていました。ある意味では、それだから松下幸之助さんは私をかわいがってくれたのですが。

 そういうことで私は、売り上げを伸ばして勝つことばかりを考える、そんな結果が全てだという考え方はおかしいのではないかと、反論しました。そして、何をやっても利益を上げさえすればいいのですか、と聞き返しました。するとその方は、それが当たり前であり、勝てば官軍なのだと言いました。

 それに対して私は再度、勝てば官軍という考え方はおかしいものであって、勝つ過程のことも考えなければいけないと言いました。するとその方は、法に触れなければいいのだと、今の言い方だとコンプライアンスさえしていればいいのだと、言いました。対して私は、法律を守るというのは最低線にすぎないのであって、人間的にかなっているかどうかを考えるべきだと言いました。

 スポーツでも同じことですが、勝つ美学も大事ですが、勝ち方の美学も大事で、両方考えることが優れた経営ないし経営者には必要だと思います。法に触れなければ何でもやって利益や売り上げを上げていくのではなく、人間的な側面を考えないといけない、ということです。

 そういう話をしたら、その方は、「江口君は経営者じゃないから、随分と甘い考え方をしている」と、ぼろぼろに言ってきました。私も負けていませんから、法律は最低線を決めているだけであって、“ヒューマライアンス”が重要だというようなことを言いました。ヒューマライアンスは、私が作ってこの頃、本に書いたりして使っている言葉で、人間としての責任を意味します。コンプライアンスではなくてヒューマライアンスを考えつつ、その中で利益や売り上げを伸ばしていくことを考えないといけません。

 そんな感じで小一時間くらい激論を交わしていたのですが、そばで松下幸之助さんがベッドで横になっていて、目をつぶって寝ているような雰囲気でした。そういうことで、寝ておられるからもうやめましょうということになり、その方は出ていきました。

 その年の暮れに、松下幸之助さんとお話していたら、「勝てば官軍という言葉があるけれども、経営や商売においてそういう考えを持ってはいけない」とおっしゃいました。それで私は、松下さんは眠っていたのではなく、私たちの話を聞いていたけれども何も言わなかったのだなと思いました。
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