●経営者は経営に命を懸ける覚悟を持つべき
私は松下幸之助さんのことを23年間見てきましたが、経営や商売のことを松下さんほど本当に真剣に真正面から命を懸ける思いで考えていた人はいないと思います。私自身も、西宮のお茶室で心を許して遊ぶような者は、経営者たる資格はないと言われました。
松下幸之助さんは、織田信長を引き合いに出して、信長は酒を飲んでいても敵国や隣国のことを片時も頭から離さなかっただろう、そうでなければ天下統一はできなかっただろう、それは経営者であっても同じことだ、と言いました。
それは、ゴルフをしたり飲みに行ったりしてはいけないということではありません。ゴルフをやったり飲みに行ったりしていても、頭から商売や経営のことを外してはいけない、そういうことです。
私自身もその2年後に経営者になるのですが、この時、驚いた松下幸之助さんの言葉を、後に実感することになります。10人の組織でも100人の組織でも10,000人の組織でも100,000人の組織でも同じことですが、組織の中で1人くらいは、経営のため、会社のため、社員のため、お客様のため、自分の命を落としてもいいというくらいの覚悟を持っていないと、組織は発展しません。言ってみれば、人生マイナス経営イコールゼロというような覚悟を持った人が必要なのです。
これは言い過ぎだと思う人もいるかもしれません。しかし、そう思われるのも覚悟の上ですが、私自身はこのように思ってきました。ですから、心を許して遊ぶような者は経営者たる資格がないと、そういう松下幸之助さんの思いが、私に大きな影響を与えました。これは私が34歳の時の話です。
●勝てば官軍ではなく、人間性にかなったやり方で利益をあげるべし
私が35歳の時の話をします。私が松下幸之助さんに報告をしていたら、当時松下グループの会社の専務をやっていた方が入ってきて、先に報告をさせてほしいと言ってきました。報告をした後、二人で雑談を始めたのですが、その方は、経営というものは、売り上げを伸ばして利益を上げて、いわば勝たなければどうしようもない、という話をしました。
それに対して私は、その方は5歳くらい年上でしたが、反論をしました。私は相手構わず意見を言う方でして、松下幸之助さんにも自分の思ったことをぼんぼんと言っていました。ある意味では、それだから松下幸之助さんは私をかわ...