●試作品を入念に確認する松下幸之助
今回は、松下幸之助さんが従業員に対してだけではなく、お客様の側にも立っていた、というお話をします。
私が松下幸之助さんのそばで仕事をするようになって5年ほどたった時に、テレビ事業部の担当重役とその技術者たちが、テレビの試作品を持ってきました。松下幸之助さんは、部下が持ってきた試作品や製品に対して、非常に面白い所作をする人で、小さな製品でしたら、必ず両手で持って触りながら話を聞きます。例えば、「これはこういう新しい製品です」と技術者が話すと、松下さんは、「いいものができたし、形もいい」などと言いながら、技術者が昼夜兼行で作った試作品を、両手で触ってみます。
テレビの試作品だと、わざわざ立ち上がっていって、一通りの説明を聞いた後に、子どもをなでるようにテレビを手で触ります。手で触って裏側も見て、これでいいのではないかと確かめます。当時はテレビにリモコンがなく、ダイヤル式のチャンネルだったので、それをガチャガチャと回して変えて見て、「これもなかなかいいじゃないか」というようなことを言います。それを私もそばで見ていて、今までにない格好いい製品ができたと思っていました。
そうやって松下幸之助さんが「いいじゃないか」と言うと、テレビの担当役員もテレビ事業部の事業部長も技術屋も、皆ニコニコになります。松下電器の世界では、松下幸之助さんはいわば天皇のような存在ですから、松下幸之助さんに製品がいいと言われたら、うれしく思うのは当然だと思います。
●松下幸之助はお客様の側に立って考える
さて、試作品をいいものだと言った後、松下幸之助さんは何を言ったかというと、突然、これをいくらの定価で売ろうと思っているのかと尋ねました。すると担当役員は、間髪入れずに「18万円で十分に売れると思います」と答えました。すると、松下幸之助さんは一呼吸置いて、「18万円か」と言ったところで、女性社員がお茶を運ぶために部屋に入って来ました。松下幸之助さんは、その女性社員がお茶を運び終えて部屋を出ようとした時、呼び止めて、「このテレビの試作品をどう思うか」を聞きました。
周囲に技術屋も担当役員も担当事業部長もいるわけですから、その女性社員にしてみても「いいと思います」としか言えません。そういうわけで、繰り返し、「いいと思います」と言うわけです。す...