●三つの音楽という考え方
なぜ音楽がこのような四つの学問の一つとして重要視されてきたのか。それを知るためには、当時の人たちが考えていた宇宙の調和、あるいは「天空の音楽」といったことを理解する必要があります。
宇宙の調和のことをラテン語では「harmonia mundi」といいます。レコードのレーベル名にもなっています。宇宙が音楽を奏でているという考え方です。最近では、遠くの銀河から来る電波を受信して意味を考えようということもいわれていますが、そうではなくて宇宙そのもの、天空が一つの調和に支配されているという考え方です。それは誰もが見れば分かることなのです。12の星座が規則的にめぐってきます。惑星も規則的に動いています。天空は非常に確固たる法則に基づいて動いていて、それが人間に影響を与えるという理解なのです。
その全てを、当時の人たちは音楽(musica)なんだと考えました。当時の人たちにとって、調和(harmonia)ということと音楽(musica)ということはほとんど同義です。そして、これは万物の調和全てなのですね。
当時の人たちは、三つの音楽、あるいは三つの調和があると考えました。ボエティウスという人が音楽の本に書いていますが、最初の音楽は宇宙の音楽です。「Musica mundana」、これは、天と惑星の協和の重要性を説きます。火、水、気、地(土)の4大元素と昔はいわれていたのです。今、エコロジーの問題で、調和が崩れているために猛暑やひどい嵐に見舞われたりしていますね。愚かな人間によって自然が壊されているのです。ですから、そうした調和が重要だと、大昔からいわれているのです。人間ならば皆、感じることなのですね。
そして、時間の協和もあります。時間も不思議なものですね。音楽というのは時間芸術といわれていますが、つまり歌を歌うことは一つの特別な時間を作り出すのです。その音楽が美しい調和を持っていると、幸せな時間になります。その中で、例えば突然、交通事故などが起こってしまったら、全てがぶっ壊れてしまうわけですが、そうではなくて、幸せな時間を私たちは過ごしたいわけです。そのために実は音楽があるということです。そうした時間の協和もあります。これらを全てひっくるめて、「宇宙の音楽」と呼んだのです。
第2は人間の音楽です。「Musica humana」と呼ばれました。これは東洋、漢方と同じような考え方です...